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366:World 9〜Awfully Sadistic Operation〜



text&photo  by  ymr20xx@y-maru.com。


【クイックリンク】

怪しい雲行き
秋の青春18きっぷ
姫だるまの故郷へ    
ガンジー

突然のレース観戦
ダムとスイッチバックと観光列車と。
九州横断
精算、そして……





1日目のルート (powered by Ride With GPS)






怪しい雲行き


船は定刻通り、7:20に大分フェリーターミナルに着いた。





この光景も1年振り。



今回はここでエルコスさんを復元し、現時点ではおよそ100キロくらいの道程を往く想定でいる。




「よろしいのですか?  折角の乗り放題パスが……」
「午後から天気が崩れるみたいだから、乗れるうちに乗っておかないと」






これからどちら方面へ?



三連休の初日の朝とあって、関西圏のライダーがわんさか降りてきた。その片隅で、黙々とエルコスさんを組み立てる。出掛けに、違和感を感じていたBBを新品に取り換えてきていて、試走なしでここにいるのだが、果たして……




「ちゃんと増し締めも確認したんだけど、工具の関係で気になるところもある」
「走っているうちに不具合が出たら、その都度確認していきましょう」


なんやかんや準備を進めて、フェリーターミナルを出たのが7:51。今日はここから、三重町を経由して竹田市まで向かう。





本日の配船は、さんふらわあ ぱーる(ちなみに1年前も同じ船)。






「それにしても、ですよ……」
「あれは予想できなかった……」


これについては後述。ところで、今回の旅のはじまりは、およそ2週間前に遡る。




秋の青春18きっぷ。


毎年、春と夏と冬の時期に発売されている青春18きっぷであるが、その秋バージョンが販売された。秋の乗り放題パスである。





こいつ。






「折角だからこれを使ってみよう」
「どこに行きましょうか?」


ただし、このきっぷは青春18きっぷと同等のレギュレーションで運用しなければならないので、優等列車に乗れないのはもちろん、私鉄や第三セクターも原則として使えない




「そうなると、日本海側を経由して東北に往くか……」
「西を目指すくらいしか選択肢がない」


で、結局、西を目指した





この日、築地場外に用事があった関係で、新橋スタートとなる。



新橋8:12発の平塚行をつかまえて、途中何度か乗り換えしつつ、





浜松まで来たが、まだまだ先は遠い。



大垣に着いたのが15時前。ここまでは絶妙な乗り換え時間すぎて、道中で買い物すらできず





大垣ダッシュでお馴染みの。






「飲み物すら買ってる余裕がない」
「大垣で20分程度、乗り換え時間ができますよ」


米原からは新快速に揺られ、1時間半もすれば、大阪・梅田の街である。





だいぶ混んできた。






「普通の思考ですと、新幹線を使う距離なのですが……」
「きっぷの恩恵をたっぷり受けてる」


そこからさらに揺られ、住吉駅に着いたのが17:49。





ここで乗り換える。






「ここで降りるのも、1年振りですね」
「また来るとは……」


新快速の停まらない地元の小駅に降り立った理由は一つしかない。ここから六甲ライナーに乗り換えて、神戸フェリーターミナルを目指す。





……おや?









連絡バス来ねぇ。









「やっと来たかと思ったら満員だってよ」
「一旦わたしを復元してみては?」


このあたりは輪行勢のアドバンテージである。最低限の機能だけを復元してエルコスさんを組み立て、そこからおよそ5分程度走れば、フェリーターミナルに着く。





とりあえずバスよりも早着できた。



袋への出し入れは面倒だが、いざとなればバスの待ち時間を大幅に減らせるし、神戸の場合だと途中にコンビニがあるので買い出しの利便も良い。




「熟練者向けの荒業には違いありませんが」
「そりゃそうだ。基本的に輪行は面倒くさい作業なんだし」


さて、神戸フェリーターミナルには18:51着。ここで再度、エルコスさんを袋詰めにする。




「それでは、また大分で逢いましょう」
「少し休んでておくれ」






乗船。



インターネット予約を活用していると、窓口でのチェックインが省け、メールにて送られてきたQRコードを乗船口にかざすだけで乗船できる。このあたりは、「便利になったもんだ」と感心してしまう。

そして、1年前と同じく、大分下船口の業務スペースにエルコスさんを置かせてもらい、出航まで時間を潰す。




「関西航路は無料なのに、北海道航路は2500円も取られるというのは……」
「統一してほしいし、輪行なら無料にしてくれると嬉しいんだけどね」


エルコスさんの言うとおり、関西航路は輪行袋に入っている自転車の持ち込みは無料で取り扱ってくれるのだが、北海道航路だと受託手荷物扱いとなって有料になる。しかも、輪行状態で3000円、バラさずそのまま乗船すると最大で2500円と、輪行袋に突っ込む理由すらなくなる。




「お金がかかる世の中ですね」
「世知辛い」


なお、船の出航は19:50。乗船と部屋の確認をしたら、すぐさま風呂に入って汗を流す。レストランは出航前から混むことが分かっていたのでスルー。





ラブライバーさんふらわあスタッフによるお見送りの儀。






「そろそろ出航ですね」
「いつも通りラブライブレードでお見送りだ」


明日の大分着岸は7:20頃とのこと。今日はもう早めに寝てしまおう。





瀬戸大橋を潜る(※注:諸事情により明石海峡大橋を瀬戸大橋と呼称しています)。






姫だるまの故郷へ






そういやフェリーターミナルのすぐ隣がホバーのターミナルだった。



最初の目標を豊後竹田に設定し、まずはR210を南下していく。竹田の標高は300近くあり、ここから先は登り基調ということになる。




「それを見越してルートを決めてみましたが、いかがでしょうか」
「どうりで豊肥本線に沿ったルートなわけだ」






R210方面へ右折。直進でもいいのだが圧倒的に遠回りである。



最短距離なら、R442で山越えをしたほうが圧倒的に近い。ただし、当然のように登り勾配がセットになるので、川沿いか、もしくは鉄路沿いを選んでおけば、それほどきつい登りなどは現れにくい。




「そうは言っても、この辺りは往来が多いな」
「新興住宅街が形成されてますね」






このあたりはロードサイド店舗が目立つ。



大分川の手前でR10と合流し、敷戸、中判田と抜けていくのだが、このあたりは大分市街のベッドタウンが形成されていて、それは地図を見てもはっきりわかるほど。





地図でいうとこういう感じの場所。



そういった背景もあって、このあたりの沿道には大型商店が多く立ち並んでいる。所用をこなすには最適なのだろうが、雰囲気はあまりない。




「それでは、この先の交点で右折して、県道631に入ってみてください」
「線路沿いを往く道だな」


で、この道が大正解だった。往来の多い国道を外れ、線路沿いに往くのだけど、進めば進むほど雰囲気は鄙びていき、





獣の類が出てきそうな雰囲気に。






「いきなりアレな雰囲気になったぞ?」
「ワクワクしませんか?」


エルコスさんは楽しそうだが、確かにちょっと冒険心を擽るような道だ。そして読み通り、小規模なアップダウンはあれど、インナーに落とし込むような激坂とは無縁で、しかも交通量が少ないのでマイペースで走れる。




「まあそういった訳なのでですね……」
「写真だな?」






リクエストにお答えして。



そういえば、実走練の時にボッキリ折って再起不能にした、例のフレキシブル三脚であるが、





お前……ッ!  生きてたのかッ!?






「信じられないことに、まだ売ってた」
「まさかまさかでしたね」


仕事の買い出しで上野の淀に行ったら普通に売られていてぶったまげた。そして、喜び勇んで買って帰り、碧南の時に持ち出してみたらカメラが取り付けられなくて再びぶったまげた。




「不良品じゃないですか。どうなさったのです?」
「ダイスかました」


カメラマウント自作勢なもんで、1/4インチのタップとダイスは手元にある。なので、ダイスでネジ切り直して復活させた。




「この工業脳筋がwww」
「こんなもんで返品なんてタイパ悪いわ」


そんな世間話をしつつ、途中途中で撮影タイムを挟みつつ、犬飼駅に着いたのが9:35。





旧犬飼町の中心駅。



大分行きの列車が停まっていたが、こちらは10:00発らしい。




「双方向発着できるんだな」
「それもありますが、折り返しの列車が設定されているみたいですね」


エルコスさん曰く、停車中の10:00発も始発列車なのだとか。





大分方面の需要があるらしい。



駅前は、細い通りの両側に商店だった建物が並んでいる、地方の小駅ではよく見かける風景になっていた。しかし過去には優等列車も停まっていたこともある。




「今では地域輸送特化の駅ですが」
「まあ、仕方ないよね」


さて、10:00始発を見届けることなく、我々は先に進む。雰囲気のよかった道は下津尾の五差路で終わり、ここからR326を往く。





大半の往来は、並行する中九州横断道路方面に流れるそうだが。



雲行きは怪しく、なんとなく雫の気配を感じはするのだが、今日一日持ち堪えてくれると信じたい




「ダメですよ希望的観測は」
「まあ、念のためにカッパは持ってきているんだが……」


大野川の右岸を南下するが、このあたりは広大な田園地帯になっていて、ちょっとした丘と稲田が広がっている。つまり、景色の変化はあまりなく、淡々とこなすだけの移動になる。





のどかな田園地帯を往く。






「交通量が少ないのは有り難いんだけどね」
「大半は中九州横断道路のほうに流れているようです」


なので、見どころがないのか、と思いきや、





「み」どころか「え」もでかい。






「なんだこのでかい『み』は!?」
「越前康介ですかwww」


その道の駅みえから見下ろす景色が。





これである。






「あら、いいじゃないですか!」
「あ、説明書きがあるな」


案内板の解説に依ると、この景色は江内戸の景と呼ばれていて、中央を流れる大野川の両岸に階段状の平地が形成されていて、低地では穀物を、高地では野菜や牧草を育てているのだとか。





そういったこともあって、ここの道の駅は農作物のラインナップが豊富。



で、これら地形というのが、約9万年前の阿蘇山噴火で流れてきた火砕流によって土台ができ、大野川の水が谷地形を形成したのだと書かれている。




「阿蘇山は熊本県側の山ですが、ここまで流れてきたのですね」
「まあ、ちょいちょい噴火してるみたいだし」


どうやら直近では、2021年にも噴火をしている。熊本が火の国と呼ばれる所以にもなっている。





道の駅みえにはサイクルハンガーが用意されていた。ロードバイク用らしい。



さて、道の駅を辞してR326を南下。三重町までやってきた。





R326で延岡に向かう選択肢もある(今回は行かないが)。



ここでR502に乗り換え、今度は西へと進む。





竹田まで21キロか……



で、さらに進んでいくと、道の駅きよかわに着く。





ここ、前にも来たことがあるような……?






「あれ?  なんだか既視感が」
「わたしのデータベースによれば、初見かと思われますが……」


このときは判明しなかったが、帰京後改めて調べたら、2005年に初めて九州に訪れたとき、ここに寄っていたというログが出てきた。確か、臼杵でフェリーを降りた後、内陸部に入った途端に大雨になって、ここで引き返したんだったか。




「よく覚えていらっしゃる」
「まあね。ひとつひとつが大切な財産よ」






2005年8月に撮影。この頃はテント積んであちこち野宿しながら旅してた。奥に映ってるのは桜島。



そして今日も、なんだか雲行きが怪しくなってきた。サクッと赤缶を流し込んで、先に進むとしよう。




「ほらぁ、また食べてないじゃないですか!」
「言われてみれば」


今日、口にした固形物は、さんふらわあの朝食ビュッフェとインゼリー1個。こりゃカラダ壊すのも無理はない。





赤缶はごはんじゃありません。



豊後清川から緒方の間はちょっとした丘越えだが、緒方の市街まで来ると今まで通りの田園地帯が広がる。ただし、緒方から竹田までは、ふたたび山間部を往く。





こんなオブジェクトも。






「いいですね、少なくとも竹田では何か仕込んでください」
「わかった」


……で、12:02に竹田市の境界まで来た。





姫だるまと滝廉太郎で有名な街。






「ここが姫だるまの故郷か」
「大分遺産にもなっているみたいです」


ただ、姫だるまを作っている工房は、竹田の市街地よりさらに西にあり、寄り道するにはちょっと遠い。




「ちょっとこれは……」
「宿題、ということにしておこう」


ただ幸いにして、この竹田を代表する民芸品は、市街の至る所に飾られている。実物を見るだけならそれほど困難ではない。





宿にもいたし、温泉施設にもいた。



さて、市境からトンネルを抜けて、最初の交点にやってきた。





右折すると市街に至るようだが……






「これどっち?」
「えーっと、ですね……」


珍しくエルコスさんがマゴついた。そして、そのまま勢いで直進してしまったが、少ししてから、




「あっ違う!  右でした!」
「遅いってwww」


直進してしまったR502は、竹田市街をバイパスするように市街南側を通っている。また、このあたりは岡藩という領土があり、その城址へと続く道が接続されている。つまり、




「ごめんなさい大先生、ちょっと登ってくださいwww」
「ちょっとなのかこれはちょっとなのかwww」


あと、これはエルコスさんからの追記なのだが、そもそも竹田という街自体が盆地状であり、市街地から外に出るためには、どこを通っても山越えだったりトンネルだったりを強いられるのだそう。





必然的に、街へは下り坂でアプローチとなる。






「これはわたしにもどうすることはできないので諦めてください」
「嫌だわぁその宣告www」






街の中心は、岡藩の時代を再現していて風情がある。






ガンジー


12:24、豊後竹田駅着。




「ところで、これからどうしますか?」
「そうだねぇ……」






とりあえずアイスかじりながら考える。



ちょうど昼時で、宿にチェックインするにも早過ぎる。もう少し走ってもいいだろうが、天気も怪しいので遠出はやめておいたほうがいいだろう。

先程のエルコスさんの解説を思い出す。もうここから先は、どこ行っても登り勾配から逃れられない。ならば……




「逆振りして、めちゃくちゃ登ってみてもいいかもしれない」
「それでしたら、ここなどは如何ですか?」


竹田からR442を西方向へ。くじゅう連山と名付けられた山脈に向かって登っていくと、ちょうど手頃な位置に観光牧場があるらしい。ここを往復すると、本日の走破距離はだいたい100キロほどになるのだとか。




「じゃ、まあ、そこで」
「では早速ですが、インナーに入れてください」






これ、駅のすぐ裏の路地やぞ?









初手からエグし。









「やっぱ15時までお茶しながら竹田観k……」
「だめですよーwww」


会々交点からしばらくは、まあまあきつめの勾配が続く。アベレージ6くらいとあるが、部分部分で2ケタ台の勾配になったりするので油断ならない。




「もしかしてずっとこんなんなの?」
「いえ、道の駅の手前で少しだけ緩みますよ」






ちょっと緩んだけどさ……



緩みはするが、相変わらず登り勾配には違いない。長丁場となることを予感して、インナー固定でじわじわ登っていく。




「道の駅があるって言ったな」
「もう少し先です。食事と補給をしておきましょう」


その道の駅竹田には13:05着。





どうやら久住高原方面への中継基地らしく、オートバイが沢山停まってた。



最近、野菜は道の駅か直売所で買うようにしていて、ここのラインナップは見ていて食指を動かされる。




「わたしで来てしまったばっかりに……」
「しゃーない。クルマで来る機会があったら買い込むとするさ」


……で、レストランがあったので昼食も済ませておく。恐らくこの先、食糧を調達できそうな場所は皆無か、あっても限定的になりそう。





和風ハンバーグがオススメとのこと。






「とりあえずオススメ食っておけば問題ない」
「チキン南蛮もおいしそうですね」


さて、道の駅から久住町の市街地までは6.5キロほど。アベレージ3程度のダラダラした登りが連続する。





終わりが見えない。



先程からぽつぽつと雨粒を感じるようになったのだけれど、もしかして上のほうは降ってるのだろうか?




「五分、といったところです」
「カッパ出したくないなぁ」


などとやっているうちに、13:56久住町着。ただし、北海道仕様のカントリーサインはあるものの、2025年現在は竹田市の一部となっていて、久住町という自治体は存在しない。




「たまには写真撮りましょうよ」
「しょっちゅう撮ってると思うのだが」






久住高原地帯の入口。



支所などがあるこの市街地の南側にバイパスが通っていて、街の中心へは側道に入る必要がある。そういえば、途中に立派な単式蒸留器が置いてあったが、




「元々酒蔵だった場所を蒸留所に仕立てたそうです」
「国産のウィスキーか」






ちょっとイイ匂いも漂ってきてた。



久住は酒造りに適した場所で、特に良質な湧水が得られることが一番のアドバンテージだそう。規模は小さいが、一歩一歩知名度を上げていってほしいところだ。




「……折角だから何か買っていこうと思うのだけれど」
「やってないみたいですね」






一応、ここで販売もやってるらしい。この日は閉まってたが。



久住町からさらに標高を稼いでいくと、道は二手に分かれる。といっても、片方はR422から外れる小径なのだけれど。





キャンプ場方面の近道のようだが……



エルコスさん曰く、「小径のほうが近道だけど勾配がエグい」という。




「まあでも、こっちのほうが味がありそう」
「知りませんよ力尽きても」


結果的に、エルコスさんが危惧した通りの展開がこの後待っていた。





予想はしてたがいきなり登る。



まずはアベレージ7の登り勾配。これは700メートル程度で終わり、その頂点にはコナラの大木が生えている。





コナラの大木。



ここからが少々ややこしいのだが、コナラの大木付近はX字状の交点になっていて、斜め右方向に進んでいく。




「わたしたちが来たのが7時の方角からだとすると……」
「1時の方角に進めばいいんだな」






わかりづらいが、細い道が続いている。



そして最初の分岐を左に進めば、奥豊後グリーンロードとの交点に出る。





ガンジーファームってところが到達地点。






「あと5キロで着きます」
「問題は、あとどれくらい登るか、だ」


登り初めは、鬱蒼と木々が茂る森の中の道だったが、それも程なくして一変し、高原の牧草地帯に変化した。ここが久住高原と呼ばれる一帯になる。





視界が開けた。



……で、ここで脚が終わった




「あらららら?」
「フラフラしてますよ!?」


突然脚が回らなくなった。たぶんハンガーノック出かけているのだろうけど、この高原地帯の登り勾配、地味にアベレージ8とからしい。




「拷問かよ」
「ちょっと休憩しましょう。先程買われたパンがありましたよね?」


ちょっと路肩に寄せて止まり、パンをもぐもぐ食べながら、これから通るであろう道を確認すると、





梅原大吾氏がつかまえて画面端に追い込んでバースト読んだあとの展開。









まだ登る。









「まじかー」
「ガンジー牧場の辺りが頂上ですから、もう少し頑張りましょう」


ところで、このあたりは良質なツーリングスポットになっているらしく、そこかしこで高級そうな車両が隊列を成して走っている。





ロードスターオーナズクラブ。






「こんな天気なのにねぇ」
「自動車からすると、天気はあまり関係ないように思いますが」


標高は800を超えて、周囲は見渡す限りの牧草地帯。うん、確かにツーリングの目的地としては最適なのだろう。





風光明媚とは。









なんも見えない。









「天気が良ければ最高に気持ちが良かったのですが」
「ま、こればっかりはね」


そして、折り返し地点として設定していたガンジー牧場には、15:15到着。





久々におみまいされたぜ。






「お疲れ様です。もうあとは下るだけですよ」
「もうオラ登りたくねぇだ……」


ところで、牧場名にもなっているガンジーであるが、どうしてもマハトマ・ガンジーを想起してしまう。当然違う



どうもこいつがヒントらしい。






「イギリスとフランスの境目にある海峡に浮かぶ島で、酪農が盛んな地域です」
「ガンジー種っていう牛なのか」






ガンジー島でが発祥の乳牛ということらしく、かなり珍しい種なのだそう。



この種から絞り出される乳は、栄養価が高く黄金色をしているのが特徴なのだとか。試しに買ってみようかと思ったが、まあまあ並んでいたので別のにした。





牧場で売ってるパンと乳製品で外した試しはない。






「レストラン閉まってたんだけど、パン売ってた」
「ちゃんと食べないとダメですよ?」


ガンジー牧場は観光に特化していて、お土産物も豊富に取り揃えている。ご近所用に簡単なものを買い込んでおいた。





ワインが欲しくなるな。



気が付けば時刻は15:40。曇り空で小雨がぱらつき、何となく肌寒さを感じてきた。




「日没までには降りれるかな?」
「大丈夫と思います。ここからは本当に下り勾配の連続ですから」


ならば迷っている暇はない。できるだけ早く下ろう。




「あ!  大先生、碑がありますよ!  折角だかr……」
「下るんだってばー!」






でも撮っちゃう。



天気が良ければ、この方角に九州最高峰の中岳が見えるはずなのだが、ご覧の有様である。これ以上ここに留まっていても意味がなさそうだ。





照れ屋さんめー。



帰りは、往路とは違うルートを使う。当初予定では、県道669、412、47と連絡していくこちらを往路とする予定だったのだが、




「こっち往路にしなくてよかった」
「ちょっと登りに遊びがないですね」






この辺は降雨があったらしく、下りで路面しっとりというデンジャー状態。



R442と比べても、遊びのない登り勾配が延々と続くので、恐らく途中で心が折れる。特に、竹田から県道412交点付近までは何もなさ過ぎてマジで心が折れる




「ですが、アベレージは3とかみたいですよ?」
「それが10キロ近く続いて、しかも周囲は森だぞ?」


結論として、ルート選定は正しかった、ということだ。





温泉とサーキットの町。



さて、我々は16:53に豊後竹田駅に戻ってきた。今日の宿は、駅近くに用意しているので、あとは晩飯を少々買い込んでチェックインすればよい。ついでに、明日のプランも立てておこう。




「さすがにもう一回は登りたくないし、きっぷの効力生きてるし」
「では、明日の阿蘇方面の列車を確認してみましょう」






全然ないじゃん。









過疎ってるなぁ。









「一日5往復かよ」
「6:43を逃すと、次は11:01ですね」


こりゃあ早く寝るに限る。早々に投宿しよう。





駅からすぐ近くの宿が取れた。























2日目のルート (powered by Ride With GPS)




突然のレース観戦


何とか時間通りに起きれた。これで6:43には余裕で乗れる。





ここでも姫だるまがお見送り。



昨晩降ったと思わしき雨で、路面はしっとりしていた。登坂をするしないに関係なく、竹田からの輪行で正解のようだ。





耐性が付いたってだけで、別に雨の中を走りたいわけではない。






「で、どちらまで行きますか?」
「天気も悪そうだし、このまま熊本に出てもよさそうだよなぁ」






行先は考えずに、とりあえず乗っておく。



なんて考えながら、宮地行の始発に乗り込む。そして、どんよりとした天気の中をガタンゴトンと揺られていくと、





※注:同じ日です。









何が起きた!?









「急に晴れた」
「どうやら九重連山を境に天気が変わったようですね」


峠を境に天気が急変するということは過去にも経験はある。しかしこれは変わり過ぎじゃないか?





列車は宮地止まり。



とりあえず、終着の宮地駅まで来た。このまま乗り換えて熊本方面を目指しても良いのだけれど、こんだけ晴れているのに乗り鉄決め込むのは聊か勿体ない。




「もう今日は観光だぜ?」
「よろしいじゃないですか」






今日はここからスタートか……



エルコスさんを復元し、観光案内を見ると、近くに阿蘇神社があるらしい。そう遠くないのでちょっと足を運んでみよう。





後に勘違いが判明するきっかけ。



ところで、阿蘇一帯でいうと、やまなみハイウェイが有名であるが、今の今まで、阿蘇山=やまなみハイウェイだとずっと思い込んでいた。全然違った




「阿蘇山は、後方のあの山ですよ」
「全然違うじゃん」






あれらを全部含めて、阿蘇山と名付けられている。



やまなみハイウェイは、主に阿蘇くじゅう国立公園内の北部にある高原地帯を往く道で、対する阿蘇山は、R57を挟んだ南側にある、東西に並んだ複数の岳を指している。




「つまり、あれが阿蘇山でして……」
「なんでインターバルセットした?」






阿蘇の街からだと、だいたいの場所から阿蘇山の雄姿を拝める。つまり、どこで撮影してもおk。



さて、改めて阿蘇神社を参拝。





神様としては、健磐龍命を一宮の祭神とし、12の柱が祀られている。



んで、出発しようとしたら、ご同業との邂逅。







まあまあな数の。










しかもお揃いのジャージときたもんだ。






「これ何かあるぞ?」
「ちょっと調べてみますね」


そうこうしているうちに、交通規制が始まった。同時にエルコスさんが真相にたどり着いた。




「ツール・ド・九州の阿蘇ステージが開催されるようです」
「今日!?」


この3連休に九州一帯で開催されていたのだが、偶然にも今日が阿蘇ステージで、しかもすぐ近くを通るらしい。



看板も建っていた。






「ちょっと見ていこうぜ」
「わたしも初めてなので、是非見たいです!」


大会コースは、産山村の高原地帯を2周回する設定になっていて、南側の折り返し地点が阿蘇神社のすぐ近く、一の宮という場所らしい。





ここが折り返し地点で、その手前くらいにスプリントポイントが設定されていた。






「ここか」
「規制が始まってますね」


聞くところによれば、南小国を9:00スタートして、この折り返しにやってくるのは9:30過ぎだという。スタート地点からここまでの距離はおよそ23キロで、それを30分強で走り切るということは、




「アベレージ46とかマジか……」
「次元が全然違いますよ」


余談だが、オフィシャルから応援グッズを貰った。





とりあえず折り目に沿って折ってみた。






「これどうするの?  折り目ついてるけど」
「ハリセンのようにして叩いて音を出すようです」


あと、そのグッズに書かれていたのだが、





るるも(cv:三森すずこ)と御堂筋君を描き分ける日本の自転車乗り兼漫画家。






「ワタル先生ちょっと出過ぎやしないか」
「弱虫ペダルの次が出てきていないのも原因なのでは?」


そんなワタル先生、長崎県のご出身。この大会に懸ける思いもひとしおなのだろう。





にわかに雰囲気が変わった。



……なんていってるうちに周囲がざわつき始め、オフィシャルの車両が大量に通過していく。ということは、




「あ、来ましたよ!」
「前の逃げ集団はスプリント狙いか」






ジョルダン・ジェガットが先頭で突っ込んできた。










コーナリング速度と集団の密集度がおかしなことになってる。






「すっごい!  すっごい興奮したーっ!」
「素人が出せる速度じゃねぇよなこれ」


余談だが、この観戦ポイント手前にスプリント賞のポイントがあり、トタルエナジーズ所属のクライマー、ジョルダン・ジェガットが1周回目のスプリントを取ったようだ。レース自体はアンテルマルシェ・ワンティのドリース・デポーテルが初勝利を挙げた。

さて、時間の関係で1周回目を見届けた後、我々は出発したのだが、




「大先生もやればできますから!  ホラ、アウタートpp……」
「無理無理無理無理!?」


50近いおっさんに、何させようというのか。





よくよく見たら、あちこちでTDK推しだった。






ダムとスイッチバックと観光列車と。


阿蘇からはR57を西に進むだけでいい。完全な下り基調で、労せずに熊本方面へ降りられる。





熊本方面へ。






「交通量が多いですね」
「九州を文字通り『横断』する道だからね」


一方、熊本から阿蘇方面、すなわち東の方向にR57を用いる場合、交通量が多いうえに、阿蘇までの区間が思った以上に勾配がきつく、特に、白川と黒川が創り出す渓谷の脇を通る辺りは、道幅が狭いうえにインナー必須の斜度があるので、ちょっと厳しいと思われる。





南阿蘇村へ。名水の里としても知られる。



個人的に東へ行く(阿蘇方面に登る)のにR57を使うのはお勧めできない。この区間は裏道を開拓する必要があるだろう。西に下る分には問題ないが




「今日はルートの選定がうまくいってる」
「何よりです」






谷沿いに急な下りを駆け降りていくと、



やがて道は、新阿蘇大橋に至る。先の熊本地震で崩落し、その後再建された橋で、南阿蘇地域への主要な幹線として機能している。そして、ここから道は片側二車線になる。




「深い谷ですね」
「ダムでも作れそうな形状してる」






二車線道路になった。



二車線道路になると、周囲の巡航速度が格段に上がる。下り坂をいいことにこちらもギアをかけて勢いよく下るのだが、その途中に、スイッチバックで有名な立野駅がある。




「寄りますか?」
「もちろん」


せっかくだしちょっと寄ってみるか、と思ってたら、なんか新しいダム建ってた





看板が綺麗。






「本当にダムが建ってる……」
「いや、このダム知らないぞ?」


少なくとも、オートバイ時代に訪れたときには存在していないダムだ。んで、エルコスさんに調べてもらったら理由が分かった。このダム自体、2024年から運用を始めている、できたてホヤホヤのやつだった。




「管理事務所があるようですが」
「ダムカードもらえるかもしれん」






実際にダムカードがもらえる。頒布はここで。



で、管理事務所まで行ってみたら、ちゃんとした観光スポットになっているし、ダム建設の経緯と歴史についても掲載してあった。





ダム建設の経緯が書かれていた。



このダムが堰き止める白川は、回数こそ多くないが水害の歴史に翻弄されており、ひとたび大雨が降れば、その勢いで下流部の熊本市街を度々水浸しにさせてきた。物的被害もさることながら人的被害も甚大で、特に昭和28年の水害では、死者400名以上を出す大惨事となっていた。

このダムは、それら水害から下流部を守護するために建てられたものとある。





ちょっとアーチ状になっているのが分かる。






「それにしても、この形状は珍しいですね」
「重力型アーチダムになるんだと思う」


若干のアーチ形状からそう思ったものの、どうやら公式には重力ダムにカテゴライズされるらしい。





正面から見る限りだと純然たるG。



さて、時刻は11:30になろうかという頃。エルコスさんが突然、声を上げた。




「先程の展望台まで戻れますか?」
「……列車の通過時刻か」


急いで戻ってカメラを準備していると、唐突に踏切が鳴った。そして、





全部盛り。






「観光列車だ」
「よかった間に合った」


背景に阿蘇の山々、手前にダム、そしてトレッスル橋、そこを渡るトロッコ列車と、被写体のエルコスさん、







数え役満。









「なんで大きい三脚持ってこなかったのですかぁぁぁっ!?」
「さすがにこの高さは無理だって」






このあと立野駅にも寄った。これが豊肥本線名物のZスイッチバック。






九州横断


これでやるべきことは大体終わった。もう満足なので、熊本まで一気に下ってしまおう。





市街地然としてきた。






「本当に観光になってしまった」
「こういう日もありますって」


やがて白川の渓谷も落ち着いてきて、大津町まで降りてくると完全に市街地のそれである。





熊本市の文字が。



熊本市のカントリーサインが見えてきて、もうすぐフィニッシュかぁ、とか思いながら走っていると、エルコスさんが再び声を上げる。




「大先生、左のクランクから異音が……」
「そういやさっきからギシギシいってるな」


クランクを回している時に異音がして、回さずに滑空しているときは異音がしない。ホイールのトラブルではなさそうなので、一旦停まってチェックしてみることに。

そしたら停まった瞬間、クラッときた。




「大先生!?」
「大丈夫だ。ただ、なんかクラクラするな……」






そういや今日はやけに天気がいい。



後にわかったことだが、この日の九州地方は最高気温34℃を記録するという真夏日。おまけに前日の涼しさにかまけて水分補給を怠っていたから、これたぶん熱中症だろう。




「違う、たぶんじゃなくて間違いなくです」
「どうりで冷房の効いたコンビニの居心地が良かったわけだ」


なお、異音の原因は特定できた。クランクを留めている2本のボルトが完全に緩んでいた。





携帯工具でどこまでやれるか。



思えば出掛け前にBBを新しいものに交換した際、クランクキャップツールがなかったのでマイナスドライバーでコンコンやって締め付けたのだが、たぶんその辺が原因だと思う。




「いくら何でも横着し過ぎですよ!」
「時間がなくて適当にやり過ぎた」


とりあえずボルトを増し締めして、帰京したらきちんと整備する。もちろん正しい工具で





熊本市電の線路が見えた。



さて、熊本市街まで降りてきたので、せっかくだから熊本城をちょこっとだけ眺めていく。




「たぶんあれ」
「ちゃんと見学してこられたらよいのに」






チラ見せ。



参考までに、熊本城の天守見学は有料で、ネット予約でチケット購入すると800円で見学ができる。相変わらず有料施設の見学には財布の紐が固いのだが、現在時刻は14:00。乗り放題パスの効力は今日まで生きているので、各駅停車を使って運賃を切り詰めたい。




「ここから熊本駅まで走って、博多のほうに行きたいのだけど」
「時刻を確認しますね」


今日の宿を博多駅前のいつものところで押さえているので、博多到着があまり遅くならないようにしたかった。




「14:46の鳥栖行を捕まえられたら、17時前に博多に着きます」
「ちょうどいいな。それを目指すか」


これで全部やり切った。大分から熊本まで、途中輪行を挟みながらではあるが、きっちり九州横断ができた。





豊肥本線の終端でもある。



14:25、熊本駅に到着してエルコスさんを袋詰めにする。このまま帰京まで袋の中に入っていてもらうので、少し丁寧に組み立てていこう。




「大丈夫ですか!?  先程からフラフラしてるし手先が覚束ないしで」
「俺、この戦いから戻ったら、焼酎ガブ飲みするんだwww」






どうにかなったが発車時刻が近かったので呑み鉄はナシ。ガブ飲みもおあずけ。






精算、そして……


さて、今回は、秋の乗り放題パスという新しいアイテムを取り入れてみた。これは、先述のとおり青春18きっぷの秋版という立ち位置で、青春18きっぷの3日版よりも安い7850円で利用できる。




「ただし3日間連続での使用になる」
「これは青春18きっぷと同じですね」


で、運賃の収支報告であるが、まず、東京都区内から神戸市内が9460円





なお、グリーン券と呑み鉄代は含まれない。






「この時点で浮き確定ですね」
「ここからどう盛れるかだ」


次に、豊後竹田から宮地までが870円。





豊後竹田−宮地の県境区間は本数が極端に少なく、1日8往復(普通5往復+特急3往復)しかない。






「これはこんなもんだろう」
「6:43を逃したら特急を使わなければいけないところでした」


そして、熊本から博多までが2420円。





博多到着時には陽が暮れていた。






「厳密には、博多は福岡市内という特定区間内にある駅だ」
「それダウトです。201キロ未満なので、特定区間内ですが博多駅限定になります」


なんやかんやで計算すると、きっぷの効力が及ぶぶんの運賃は、〆て12750円となり、4900円浮いたことになる。




「旅程に余裕があるのなら、悪くない選択肢ですね」
「このテの乗り放題きっぷの醍醐味ってこれだと思ってる」






浮いたお金で寿司くらいは食える。



あと、これは偶然なのだが、東京→新大阪間を新幹線移動した場合の特急料金が4960円、熊本→博多間で2890円であり、足すと7850円という乗り放題きっぷと同額というミラクル。




「ま、時間と快適さに課金するかしないかってことだ」
「確かに」


今回はさんふらわあに乗船する目的があったので、うまいこときっぷを活用できたが、どうしても元を取るためには、最低でも1日は鉄道による移動日を確保する必要があることがわかった。機会があれば、またこういった活用のしかたをしてみようと思う。




「これで残り2つ!」
「まったく、とんでもないことをしてくれたもんだ……」






悪夢はまだ終わらないwww












TITLE:ひどく残酷な作戦
UPDATE:2025/010/21
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