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265:World 9〜遥かなる佐多岬〜



text&photo  by  ymr20xx@y-maru.com。20230917改題、以前のタイトルは「エルコスさん日記13〜遥かなる佐多岬〜」






本日のルート (powered by ルートラボ)

志布志→内之浦→岸良→辺塚→浜尻→大泊(実測125.8km)




わたしの日記


「さてエルコスさん、ここに宮崎空港行きの航空券がある」 「ええ、マイルが溜まったので、この間交換してらっしゃいましたね」 そういえば、大先生がだいぶ前から、「マイルがどうした」とか「どこで宿とろう」とか仰っておられましたけれど。どうやらこれのことだったのですね。 「という訳で、佐多岬に行くのだが……」 「大先生、とてもいいチョイスじゃないですか! ……ですが、なぜ宮崎に?」 「うん、ちょっとだけ気になってたルートがあってね」 と、徐に大先生は、工房にあるホワイトボードに、なんとなく大隅半島っぽい絵を描きました。その絵にさらに、線を一本。 「国道260号線ですね。鹿児島から佐多岬に行くメインルートですよね?」 「んで、もう一本足すよ」 色を変えて描かれたその線は、大隅半島の右側、すなわち、地理的には志布志のあたりから海岸線沿いをなぞるように引かれました。 「そういえば、前に424を成されたときに、ちょっと話題になりましたね」 「そう。で、気になってたんだけどさ」 そこで大先生は、こう言いました。「大隅半島の右側を、自転車で走破した記述が、思った以上に少ない」と。試しにわたしのデータベースと、ネットワーク内の情報を精査してみたのですが、 「……みんな、根占を経由するルートばっかりですね」 「そうなんだよな。内之浦経由で、特に県道74号線を通るルートについて、ほとんど言及がない」 なるほど。これは面白そうじゃないですか。これで佐多岬到達ができれば、わたしたちにとって、北と南を制覇したことになるわけですね! 「……ただ、懸念事項がいくつかあるんだ」 「と、いいますと?」 「天気がすげぇ悪そうなんだ」 「……はい?」 アタック予定日、そしてその前日、もっと言ってしまえば、九州に移動している間、午前中が雨で午後から晴れる、というような変な天気が続いているようなのです。まあ、一日中雨が降っている、というのは勘弁してもらいたいのですが、せめて半日くらいなら…… 「油断してはいけない。今回通るルートは、おそらく奥只見レベルの人跡未踏の地なんだ」 「う…… 無事に帰ってこれるのかしら?」 わたしは出発前から、イヤな予感しかしませんでした。しかし、大先生の休暇と、既に押さえてしまった航空券の問題から、不退転を覚悟するしかなかったのです。



このときは、まさか本気で雨が降るなんて……

宿にて。この後バルブコアがすっぽ抜けました。



さて、大先生の工房でペダルをSPDに交換し、勤務を半日で切り上げて、宮崎空港に降り立ちました。空を見ると、星が見えるではないですか。 「これ、本当に明日、雨ですかね?」 「これだけ見ると、ガセっぽいんだが」 そして翌日、見事な鉛色に染まった空からは、天然のミネラルウォーターが降ってきました。 「神は死んだ」 「と、とりあえずタイヤに空気入れましょうよ」 航空機対策でエア抜きしていたタイヤに、きっちり7キロのエアを再装填します。そして、携帯ボンベを外そうとして、一緒にすっぽ抜けたバルブコア。 「きゃぁぁぁぁぁっ!? 何やってんですかぁぁぁっ!?」 「むしろこっちが驚いとるわ!」 バルブコアを締めこんで事なきを得ましたが、この先どうなることやら。 「まあ、何とかなるだろう」 「だと、よいのですが……」 不運はまだまだ続きます。とりあえず行程の出発ポイントになる志布志に行くため、日南線に乗るのですが、5分の差で乗り遅れてしまいます。しかも、次の志布志行は12時までなさそうです。 「だが、代わりに面白いものに乗れそうだ」 と、大先生。よく見ると、10:35発の特急に乗れs…… と、特急!? 「空港に逆戻りなさるのですか!?」 「違う違う、あれだよ」 大先生が指し示す先、宮崎のほうからやってきたのは、特急と呼ぶにはあまりにも小さくて、そして、おもちゃみたいに可愛らしいものでした。 「海幸山幸ですか」 「JR九州の観光列車だ」 そういえば、424のときは肥薩線のいさぶろう号に乗車してましたっけ。どちらも縁深い、水戸岡鋭治デザインじゃないですか。 「うぉっ、この列車、木でできてr……」 「ラピュタの真似してもダメです。ラッピングしてるだけですよ」 この車両の種車はキハ125、確か高千穂鉄道か何かで使われていた車両のはずです。 そんな観光列車に揺られ、わたしたちは志布志を目指します。途中、インバウンドの女性と談笑したり、インバウンドの男性と談笑したり、 「インバウンド多いねぇ」 「まあ、流行りですからね」 そうこうしているうちに、鬼の洗濯板なんかを左手に見つつ、日南駅を過ぎて、終着の南郷駅に近づきます。その途中、車内で紙芝居が催されるようですが、 「ほらほら、行きましょうよ」 「そうだった。観光列車ってこういうのがあったんだ」 という訳で、他のお客さんと一緒に、列車愛称の由来となった山幸彦と海幸彦の物語に耳を傾けましょう。ちなみにこの話、要約すると意地悪するお兄さんを懲らしめる話、なのですが…… 「てか、最初に大事な釣り針なくした山幸彦のほうが悪いんj……」 「まあ、それだけじゃないですから」 余談ですが、この話が基になって、浦島太郎の話が生まれたとのことです。 「あっちもあっちで理不尽だよなぁ」 「まあ、教訓も含まれていますから」 さて、南郷駅に到着したわたしたちは、ここで1時間近く、次の列車を待ちます。南宮崎出発の時点で、その列車に乗るしかなかったという、その列車を待つのです。 「追い金510円だったから、いいネタ補給になったよ」 「ですが、片道100キロない乗車券です。これでは途中下車ができません」 とはいえ、今日はもう走らないと決めていた大先生。おとなしく待合室で待っていると、なんと天気はみるみる回復傾向に。そして、13:51志布志行が到着した頃には、なんと青空が…… 「神は死んだ」 「き、気をしっかり……」 清々しい快晴の中、わたしたちを乗せた列車は、トコトコと志布志に向けて走り出しました。 不運といえばもう一つ。 志布志に着いたわたしたちは、いつも通り腹筋の聖地を詣でてから、晩御飯を兼ねて地元のソウルフード、マルチョンラーメンを食べに行ったのですが、まさかの定休日でした。 「神は死んだ」 「オーバーキルにも程がありますよ……」 結局、2年前と同じく、晩御飯はアピオということになりました。



海幸山幸です。このあと油津に回送されます。

さすがにマルチョンが定休日なのは衝撃でした。



前日のうちにザックを宅急便陸送で鹿児島に送っておいたわたしたちは、身軽な状態で志布志のホテルを出発します。 「それにしても、志布志の地形ってエグいな」 「と、いいますと?」 「海岸線に落とし込むように切り立ってるから、高台に上るのがエグい」 ははぁ、それは確かに。 昨日、ヤマトの営業所に向かうため、高低差なしの地図頼りに志布志支所の脇を抜けていったら、いきなり激坂が待っていたのです。迷わずインナーローで、それでもなおヨタヨタになるような激坂をクリアし、営業所に着いた頃には汗だくになっていました。 「なんか今から嫌な予感しかしない」 「まあ、こればっかりは、行ってみないとわかりませんから」 なんとか大先生を励ましつつ、R448沿いに南下を始めます。ここは、424のときも通った道で、勾配変化のない走りやすい道だったと記憶しています。……あと、雨の記憶です。 「なんか降ってるよねぇ!?」 「遺憾ながら、降ってますね」 もうこの時点でポツポツ感じていました。まあ、前日の天気予報で絶望的な予報を見ていますから、ある意味この程度の降雨でも感謝しなければいけないのでしょう。 2年前、分岐点となった柏原小入口交差点を左折します。ここからが、大隅半島の入口です。 「気を引き締めていきましょう!」 「何事もなきゃいいが……」 さて、道はというと典型的な海岸沿いのアップダウン連続で、しばらくはアウターで処理をしていきます。まだまだ序の口、といったところでしょうか。 「ただ、地味にきついな」 恐らくそれは、雨のせいだと思います。ウェアを濡らすほどの雨量ではないものの、じわじわとメンタルを削ってきます。 「ただ、もう少し強まるようなら、カッパですからね」 「あんまり着たくないんだけどな」 それもそのはずで、3月末にありがちな春の陽気がそこにありまして。カッパを着れば問答無用で蒸れてしまうのです。 さて、このR448という道ですが、あちこちで改良工事がなされているようで、時々どっちに行ったら良いか判断に迷う場面も出てきます。 「で、どっちよ?」 「どちらを選んでも、同じ場所に出ますよ」 そんなやりとりを経て、しばらく走ると、左手に人工衛星のアンテナが見えてきました。オブジェとなって久しいようですが、ロケットの街らしいオブジェです。あ、よく見ると街灯とかがロケットの形です。 「それじゃ、アレは?」 「え…… 洞窟?」 洞窟です。崖にぽっかり穴が開いてます。 「あ、何か書かれてますね」 「えっと、何々……?」 すぐ脇に、説明の看板が建っていました。よく見ると、先の大戦で築かれた、砲台の跡のようです。 「そうでした。このあたりは戦争の遺構もたくさん残されてるんですね」 「言ってみりゃ、あの人工衛星は戦争の遺産を平和的に活用しているってことなのかもな」 そんな社会科見学を経て、わたしたちは内之浦の街に辿り着きました。ここにはコンビニがあり、補給が可能です。そして後で分かったことですが、ここから佐多岬まで、コンビニは一軒もありません。つまり、ここが最後の補給基地、なのですが…… 「大先生、ちゃんと補給物資は仕入れましたか?」 「ああ、心配するな。菓子パンを買い込んでおいたぞ」 これに加えて、スニッカーズとジェル2個。……まあ、とりあえずは大丈夫でしょうか。目の前でさらにバナナ味のジェルとプロテインミルクを口にする大先生を見て、わたしはそう判断しました。 ……今から思うと、これはとんでもない間違いでした。



いよいよ大隅半島に潜り込みますよ!

このアンテナ、動くようです。



内之浦の市街を過ぎると、すぐに美濃峠へ向けて、300mの登りが始まります。 「先は長いですから、とにかく軽いギアでいきますよ」 「じんわり、じんわりと……」 登坂車線を伴う登りを登っていくと、ふと気が付きました。 「あ、大先生、ちょっとストップ!」 「どうした?」 ふと振り返ってみます。するとそこには、内之浦の街が一望できました。大隅半島の山々が海岸線まで迫ってくる地形の中で、街の部分だけ平地になっていて、そこに小さいながらも集落があり、そして小さいながらも田畑が広がっていました。 「うん、何か、イイね」 「ささやかな絶景ですよ、大先生」 ひとしきり景色を堪能したあと、さらに登ると、やがて峠に辿り着きます。そこに、JAXAの宇宙空間観測所があります。 「見学には許可が必要みたいですね」 「ちょっと時間ないから、また次回にするか」 これはちょっと、惜しいことをしたかもしれません。もっとスケジュールに余裕を持たせればよかったです。 「まあ、仕方ない。天気も悪いし、粛々と進むよりほかないだろう」 「うーん……」 このあたりは、今後の課題なのかもしれません。 さて、わたしたちは下り勾配を景気よくかっ飛ばしていきますが、天気のほうは、相変わらずの曇り空で、時々思い出したようにポツポツ雨が降る、というような状況です。幸いなのは下り勾配という点だけですが、路面がしっとりしているので、ヘタな操作は死を招きます。とにかく、慎重に、慎重に…… 「あ、大先生!」 「なんかあったな」 フルブレーキする大先生。しかし、雨と下り勾配で、全然止まりません。結果的に、「根性の松」と書かれた看板をだいぶ通り過ぎて停まりました。 「停まんねぇなぁ」 「こんな状況じゃ無理ですって」 で、ちょっと戻って、その看板を見ると、どうやらこのあたりに、一本だけ松が生えているとのことです。ですが、それはどこなんでしょうか? 「旧道のほうかな?」 「え、この、どうみても廃道にしか見えないところを往くんですか?」 聞くまでもなく、大先生は進みます。うぅぅ、なんか不気味なんですけどぉ…… 「どこかなぁ、松、松……」 「どこにも見当たりませんけれど」 「松、松、松来未祐……」 「大先生、それ泣いちゃうからマジやめて……」 2015年10月27日に急逝してしまった、あの人見知り激しくも愛しい女性声優さんを思い出してしまいました。さて、件の松は、廃道の先、朽ち果てた橋から一望できました。 「あ、いたぜ松来未y……」 「お願い、本当にダメだって……」 松は、大岩からただの一幹、立派な姿で生えていました。うぅ、涙でまえがみえn…… 「何か、スマン」 「やっていいことにも限度ってのがあるでしょうに!」 大先生、時々本気でイジメっ子なんですよねぇ、ホント…… わたしが半泣きで抗議すると、さすがに大先生もバツが悪くなったみたいで、そそくさと根性の松を出発しました。



内之浦の街を一望します。

未祐チャン…il||li(つω-`。)il||li



さて、わたしたちがさらに行程を進めていくと、県道542との交点に差し掛かりました。このあたりは岸良という地名で、本当に小さな集落の中を通る道で、国道という印象はほぼゼロです。 「あ、あそこを左ですね」 その交差点は、信号すらない、路地にある丁字路という趣でした。もちろん、わたしたちはここを左折する訳ですが、 「大先生、水分は大丈夫ですか?」 「とりあえず、ボトル1本分だな」 そして、念のためにと、赤缶を一本、補充しておきました。うん、これなら大丈夫でしょう。……って、思っていたのです。この時は。 そう、この時は―――― やがて道は登り勾配になり、時々思い出したかのように下りになり、そして、県道74号との交点に差し掛かりました。 「ここだな」 「ここですね」 ここを左折した先がいよいよ、自転車で走破したという情報が乏しいゾーンになります。 「左折すると、大浦を経由して佐多岬の手前、浜尻という集落に着きますね」 「直進するとどうだ?」 錦江町を経由して、やはり同じく浜尻に至ります。一見遠回りに見えますが、微妙に距離が短いようです。 「うーん、本当でしょうか? 大浦経由のほうが近道のように思いますが……」 わたしは悩みました。地図上ではそう見えるのですが、本当に距離は長いのでしょうか……? で、最終的に、大先生が結論を出しました。 「まあ、初志貫徹ってことで」……と。つまり、県道74号を往くルートにしたのです。もちろん、直進すれば佐多岬に最短で到達はできるでしょうが、当初からあった好奇心のほうが勝りました。 交点からしばらくは、延々と下り勾配が続きます。うっかり道を間違えて現道に復帰しちゃったりもしましたが、辺塚海岸方面へとコースを取るといいようです。ある程度下り、辺塚海岸の近くまで下りてきた時です。突然、大先生が悲鳴を上げます。 「な、なんじゃありゃあ!?」 わたしは振り返りました。そこにあったのは、さきほど通ってきた道です。それが、はるか上空に。 「つまり、これからあそこくらいの高さまで、登り返す訳ですね」 「おいおいおい、本気かよ……!?」 くどいようですが、今日は天気が優れません。油断していると、ポツリポツリと雨が降ってくるような空です。そこにきて、突然の登り宣言は、心を打ち砕くには充分すぎる威力があります。しかも、引き返そうにも、あのはるか上空に位置する現道まで、一体どれくらい登ればよいのでしょうか。 「正面突破ですよ、大先生」 「毎日終電まで居残りレベルの御勘弁だな」 それは年度末の大先生の宿命みたいなものでしょう(笑)。そんな私たちは、本格的な登りが始まる辺塚海岸まで来ました。そこには、息を呑むほど美しい海岸があるとのこと。 「大先生、ちょっと寄り道しましょう!」 「そこまで言われりゃ、断れねぇな」 ということで、わたしたちは辺塚海岸へ。天気は冴えませんが、そこには良質な雰囲気を醸し出す、見事な砂浜がありました。粒の細かい砂の上を、大先生はわたしが転倒しないように、慎重に押していきます。 集落の間を抜けていき、やがて視界が開けたところで、わたしたちはその景色に、時間を忘れて魅入ってしまいます。 「もしも、誰かに紹介したい海岸ベスト3があったとして」 「ここを、選ばれるのですね?」 なんて世間話をしていると、大先生はこう言いました。 「ここは絶対に紹介しない。ここを人で穢されたくない」 「ははは、賛成です」 わたしたちは小さく笑い、しばらく景色を堪能しました。



さあ、ここからが未知の領域ですよ。

わたしたちは、あそこから来ました。



しかし、その束の間の幸せも、正午を知らせる村内放送を以て、終わりを告げられました。県道に復帰したところで、これからわたしたちは、およそ600mアップ、平均勾配約8%の登りと格闘しなければならないからです。 海岸への入口から始まった登りは、そこから約10キロ先の頂上まで、ただひたすら登り続けるのです。道は時に広がり、やがてすぐに狭まり、しかし登り勾配はどこまで行けども変わりなく、 「覚悟してください、頂点まで登りが続きます」 「覚悟したくない」 マイクロ水力発電の一ノ谷発電所を過ぎ、海岸線を外れてからも、登り勾配は続きます。写真撮影と称した小休止も、やがて回数が増えていき、 「きつい」 「頑張ってください。このペースなら、1時間半もすれは下りに転じるはずですから」 わたしは鼓舞します。しかし、登り勾配は手を緩めません。 登り始めて1時間が経過しました。まだ登り坂は続きます。そして、恐れていたことが起きました。 「エルコスさん、マズい、水が底をついた」 「え……」 ボトルの水が、なくなったのです。 季節柄、ボトル1本分、水が満たされていれば足りるだろうと考えていたわたし達の、完璧な計画倒れでした。そして、登り坂はまだ続き…… 「だ、大先生、補給物資は……」 「いや、まだ赤缶が1本ある。……それしかないんだが」 それでも今は、それを頼るしかありません。昼食代わりに赤缶と仕込んでおいた菓子パンを摂取し、一息つきます。 「大丈夫、ですか……?」 珍しく肩で息をしている大先生に、わたしは声を掛けました。だいぶ苦戦を、というよりも、これは1年前のKOMOROのときを髣髴とさせます。 「大丈夫かどうかったら、かなりマズイ」 と、大先生。 「脚に来てる。それと、とにかく水場が欲しい」 今飲んでいる赤缶がなくなれば、飲料はゼロになります。そして、ここまでの間に、商店はおろか自販機すらないという状態。わたしたちは、完全に目測を見誤りました。一応、県道542の交点まで戻れば、自販機があるのは確認済みです。しかし、国道までの登りは避けられないし、何より、気づくのが遅すぎました。今から戻ると、本日の宿泊地である佐多岬に着くのは、果たしていつになるのか―――― 「仕方ない。もうここまで来た以上、正面突破しかあるまい」 パンを平らげ、赤缶の残りを飲み干した大先生が、そう言いました。 もう少し走れば、道は下りに転じるはず。そこを下れば集落があり、最悪でも水場はあるだろう、というのが大先生の読みでした。 「急ごう。ちょっと予定よりも時間をかけすぎている」 「……はい」 こんな感じのやりとりを経て、ようやく登りの頂点に立ったのが13:25頃のことでした。水平距離約10km、区間累積標高にして約600mの登りが終わりました。



辺塚海岸で一枚写真を撮りました。

ここが最初の頂上になります。特に碑はありません。



「や、やりましたね」 「うあー…… しんどかtt……」 「あ、ちょっと、わっ、きゃぁぁっ!?」 べしゃぁっ。と、わたしと大先生は左側に立ちゴケました。 「い、いたい……」 「スマン、脚が踏ん張れなくなった」 SPDクリートを開放するのすら一苦労、という状況で、ようやくペダルが外れ、大先生は立ち上がり、 「はいジャンプ!」 「やめれ、倉田亜美になる」 なんと、両足ともに攣りかけていたのです。久しぶりの山登りに加え、水分不足からくる脚攣りでしょう。これはいよいよ、まずくなってきました。 「ここからは下りです。とにかく脚を温存していきましょう」 「どこまで持つか……」 しかし、下りは下りで、新たな問題が発生しました。早朝からの雨で路面が濡れていたのです。いや、それだけならまだいいのですが、 「大先生、苔が! 苔がありますって!」 「苔どころか枯れ枝だらけじゃねぇか!?」 おそらく管理がそれほど成されていないのでしょう。路面には苔が生え、風で煽られ千切れた枝葉が路面を覆い、わたしたちは常に路面状況をチェックしながら走ることを求められました。特に厄介なのは枝で、下手に踏んづけるとわたしの車体がとんでもない方向に飛ばされて…… 「が、崖、崖っ!?」 「違うそっちじゃない」 ガードレールなしの断崖絶壁から、西部警察感謝デー的なパフォーマンスを披露しそうになったりしました。 下り勾配は大浦集落の入口まで続きました。ここからは再び登り基調となるようですが、先ほどまでの登りとは違い、登ってもせいぜい100m程度で、全体的に見て平坦な印象です。ここで、県道74号に入ってから初めて、1台の自動車に追い抜かれましたが、それくらい、人との出会いがない道でした。 「こんなところで万が一のことがあったらと思うと……」 「やめてくださいよ、笑えないじゃないですか」 なお、左折した先にある大浦集落もまた、人口約10人程度の、限界集落であるとのことです。その情報を大先生に伝えると、さすがに絶句し、そのあと、こう言いました。 「佐多岬に行く人が、大隅半島の左側ばかりを通る理由が、よくわかった」 「どうりで県道74号の情報が少ないわけです」 だって、誰も通らないのですから。



大浦の集落も、なかなか見どころありそうです。

ようやく南大隅町です。



大浦集落の交点から、ふたたび登り返します。幸い、大きなトラブルはなく、ようやく長かった肝付町を抜け、佐多岬を擁する南大隅町に入りました。しかし、そんな浮かれ気分でいると、すぐさま大隅半島の洗礼がわたしたちに襲い掛かりまs…… 「おいっ! エルコスさん避けろっ!?」 「ひっ!?」 咄嗟に左にかわして事なきを得ましたが、垂れ下った木の枝が、道を塞いでいたのです。あのまま突っ込んでいたら、ただでは済まなかったでしょう。 「こ、この道って……」 「安易にここに入り込んだのを、ちょっとだけ後悔してる」 大先生も、ちょっとどころかだいぶ引いてました。そして、もうひとつ、わたしたちをドン引きさせる事態がありました。 「エルコスさん、あとこの道はどれくらい続くの……?」 「はい、少々お待ちを……」 大先生からのリクエストをもとに、情報をダウンローd…… あれ? 「どうした?」 「大先生、どうしましょう…… オフラインです」 「……はい?」 わたし自身が保有するデータベースにアクセスできなくなりました。こんなことって…… 「つまり、電波が飛ばない、と」 「というよりも、基地局へアクセスできないのです。わたしが通常使用している空中線の出力では、基地局まで到達するだけの出力が……」 「早い話、圏外か」 「そうそれ!」 どうしましょう、あまりの衝撃に、わたしもどうしたらよいか…… 「地図のアーカイブファイルがあるでしょ、それでいいから出して!」 「ちょ、ちょっと待っ…… あ、ありました」 少々縮尺に問題のある地図ですが、これによると、あと8キロくらいで山岳部を抜けるようです。ただし、途中に一カ所、登り返しのような部分があり、ここが鬼門になるかもしれません。 「まずはこの8キロを何とかしましょう」 「だな」 その何とかしなければいけない行程は、先ほど遭遇した、木の枝が道を塞ぐような状況が連続するような道です。とりあえず登り坂なので速度超過の心配はないものの、下りに転じたからといって安易にペースを上げることができなくなりました。慎重に行程を進めていくしかありません。残念ながら、大隅海峡を臨む左手の景色はとても美しいのですが、見ている余裕がありません。 「脇見運転したら、一発で逝く」 「わたしもそんな気がします」 やがて、視界が大きく開けると、久しぶりに人の姿を見ることができました。打詰という集落で、こちらも人口は15人程度という小さなものですが、わたしたちが通った時は、ちょうど農作業をしているところでした。 「もしかしたら、お水を分けてくれるかもしれませんね」 「だといいんだが……」 ところが、その目論見は外れてしまいました。農作業の人を見たのを最後に、ふたたび人跡未踏となってしまったのです。そして、前述の登り返し区間。 「エルコスさん大変だ、加速しない」 「もっと軽いギアで、脚を回すようn……」 「もうとっくに34×28だって」 インナーローだけに速度は出ないのですが、そのギア比でも脚に感じる重力。大先生はふたたび肩で息をし始めます。 「ヤバイ、脚が攣りそう」 「一旦停まりましょう!」 そう、肩で息をしているうちはまだ大丈夫なのですが、足が攣ってしまったら、それ以上進みようがありません。結局、休み休み登るしかないのです。 その登りも、県道563号との交点で下りに転じ、辺塚の集落まで下ります。よくよく考えたら、辺塚から登り始めて、辺塚で終わるというルートでした。ところで…… 「……哨戒の待機場所?」 「たぶん、あれじゃないかな?」 しばらく下っていると、左手に大きなスペースが現れました。金網と有刺鉄線で区切られた、なんだか物々しい施設です。 「自衛隊の射撃場…… なるほど」 「大隅半島ってのは、戦いの遺産も多く残ってるからね」 まあ、そうでなくても鹿屋のあたりを見るとわかるとおり、大隅半島と自衛隊の関係は、密なものとわかります。この地にお住いの人には複雑でしょうけれど、人の少ないところに訓練の用地を用意するのは、理に適っています。 さて、今まで登り溜めてきた貯金を全て掃き出したところで、わたしたちにとっては朗報となる状況が待ってました。商店と自販機があったのです。 「オアシスだな」 「一時はどうなるかと思いましたよ……」 ここでようやく、水の補給ができました。加えて赤缶も。ちょうど備蓄していた菓子パンを頬張りながら、ようやく一息つきます。



いきなりこれですよ。ビックリしたぁ……

自衛隊の射撃場が見えてきました。



このあたりは、辺塚の集落部が広がっていて、海風がちょっと強いかな、という感じでした。まあ、海岸線が近いので、これはしょうがないことなのですが。ですが…… 「海岸線に近い、ってことは、ここからまた登るんだよね」 「遺憾ながら。10kmほどかけて、560mほど登ります」 「つまり、最初の登りと同じくらいってことか」 いえ、脚が売り切れているぶん、これからの登りのほうが不利です。 実際、登り始めてから、それはイヤというほどよく分かりました。とにかく、上がらないのです。 「どういう事だ!? 全然加速しなくなった」 「勾配もきついんですよ。焦ってはいけません!」 大先生がわたしを使役する際、もっとも遅い速度が時速6キロ台。これはだいたい、9%くらいの登り勾配をインナーローで走るときの速度です。そして今、それが常態化しています。 「言い換えれば、1時間半後にはこの登りは終わります。絶対に」 倒置法で念押しをします。時速とは、そういうものです。 「それ、途中で休憩ってんで立ち止まることを考慮してない数字だろ?」 「……あ」 失念してました。そういえば、さっきからちょっと登っては立ち止まり、を繰り返していましたっけ。 結局、えげつない登りを攻略するのに、わたしたちはおよそ、80分かかりました。どうやらこの道は、辺塚集落へのアクセス路として機能しているようで、今までとは比べ物にならないほど、多くの往来がありました。それならば、もう少し勾配を緩くしてもよかったのに…… 「まあ、交通量が多いといっても、絶対的に多いわけじゃないからね」 「まあ、そうですね」 その頂上からは、いよいよ本格的に下り基調。これで浜尻の海岸線まで一気に下ります。 「お待たせしました。ようやく飛ばせますよ!」 「よっしゃぁ、遂に山を越えt……」 と、突然、大先生が沈黙しました。え、一体何が…… 「エルコスさん、大変だ。腹いてぇ……」 「えぇぇぇぇっ!?」 ちょっとこんな時に何言ってるんですか!? 都合よくトイレなんてあるわけないじゃないですか!? 「スマン、ちょっとキジ撃ちに行ってくる」 「ちょっ、本気ですか!?」 大先生はそのあと、丁度良さげな場所を見つけ、わたしを横倒しにして、大急ぎで茂みの中に入っていきました。人間の生理現象なので、これは止むを得ないということは充分に理解をしているのですが、仮にもわたしは女の子d…… 「エルコスさん、大変だ。紙持ってくの忘れt……」 「バカーっ!?」 もうダメだこのひと。



もうこれで、登り坂から解放されます。

右折と誘導されてますが、直進します。



「うぁ…… もう最悪です……」 「スマン、生理現象の緊急事態には抗えなかった」 なお、大先生曰く、「その辺の葉っぱを使って事なきを得た」とのことですが、衛生面で完全アウトなので、処置できるところできちんと処置はしなければなりません。まあ、コトの最中に足が攣って、用済みの物件に倒れ込む、みたいなオチとならなかっただけ、マシだと考えるしかなさそうです。 「恐らく、気温が低いのでお腹を冷やしたのがいけなかったのでしょう」 「とはいえ、上着を着ると登りで汗をかいちゃうからなぁ」 このあたりは、レイヤリングの難しいところなのかもしれません。 さて、大中尾の交点を左折すると、今までとは明らかに雰囲気が変わります。高原地帯に似たような雰囲気で、しかもさほど人口密集していない、言い換えれば「何もない」雰囲気です。これは確か、北海道の抜海周辺なんかと同じ匂いです。 「果てに来た、ってことか」 「いよいよですよ」 道は下り勾配です。途中、県道68号との交点は、道なりに直進し、ここからは68号線を往きます。道路標識には佐多岬の文字が現れてきました。 「って、あれ?」 「これ、どっちだ?」 ふたたびY字路にぶつかります。案内看板は右を指していますが、県道からは外れます。 「肝属グリーンロードという農道ですね、そちらに誘導されていますが、どうしますか?」 「県道方向で行こう」 これには、大先生の思い入れがあるようです。 以前、一緒に地図を眺めていた時、大先生がある場所を指差していました。浜尻と名付けられたその海水浴場は、どうみても万人受けするような場所ではなく、果ての果て、知っている人しか知らないだろうという場所にありました。 「ちょっと興味がある、見てみたい」 そう言っていました。それに加え、この県道68号線、その浜尻手前で、突然寸断されています。もちろん、迂回路はあるのですが、県道そのものは、終端部で他の県道と接していないのです。 「どうなっているか、興味ない?」 いや、あるに決まってるじゃないですか。 そういった訳で、県道をチョイスした訳です。決して、グリーンロード側が登り勾配になっているからではない、……と信じたいです。 その県道68号線ですが、開けた高原地帯をひたすら下るばっかりの快走路で、目指していた終端部には、すぐに辿り着きました。 「ここが……」 「正しく、どん詰まりだな」 二車線道路が丁字路にぶつかり、その両端は一車線の路地みたいな道。これが県道68号線の終端部です。たまたま、農作業に来た方の軽トラックが近くに停まっているだけで、それさえなければ、完全に無人です。 「静か、ですね……」 「怖いくらいにね」 このあと、迂回路を経て県道564号に出ると、念願の浜尻に出るようですが、その道はふたたびY字路になっていました。 「右を往くと近道っぽいな」 「地図上では、そうなっていますが……」 で、大先生は迷わず右に伸びる畦道へ。畑の間を抜ける細い道で、軽トラックでも走るのが困難なくらいの道です。 「うぅ…… 何かイヤな予感が……」 「大丈夫だろう、地図上でも記された道だし」 全然大丈夫じゃなかったんですけどコレぇ!? 道はやがて下り勾配となって、朽ち果てた木の枝とか木そのものが道を塞ぐ状態になりました。ハイ、乗ってクリアするのはほぼ不可能ですね。 「大先生降りて! で、押して!」 「ま、でしょうねぇ」 バツが悪そうに、大先生はわたしを押します。そして道はさらに荒れ果てて、 「これ、どっち?」 「わたしが分かる訳ないでしょっ!?」 ちょっとだけ遭難しかけました。



ここが県道68号の果てです。

そ、遭難したかも……



右往左往しながら現道に復帰し、県道564号を左折すると、ようやく人の営みを感じられるほどの景観が復活しました。道は海岸に向けて平坦。谷底を走るような線形ですが、その谷底が広く、周囲には田畑が広がっています。 「これ、画になるね」 「大先生、写真撮りましょう!」 こうやってどんどん時間が過ぎていきます。結局、県道の終端である浜尻港へは、17:00の到着でした。ここで、今日お世話になる宿に連絡を入れておきます。宿の人曰く、あと1時間は見ておいてほしい、とのことです。 「およそ13キロくらいですよ、残りは」 「とすれば、あと1時間か」 この先、今までのようなエグい登りはもうないはずなので、その時間の読みで間違いはないでしょう。念のために水分を補給し、いよいよ佐多岬に向けて最後の行程です。 ……そして、とんでもないメに遭いました。 「なんか、県道を往くよりもこっちのほうが近道じゃないか?」 「そう、ですねぇ」 そう判断してチョイスした道が、とんでもない激坂でした。 「やっべぇ、無理無理無理無理!?」 「インナーローに、って、もう入ってる……」 そして、大先生の脚が、崩御しました。 「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」 「両方、攣りましたね」 もう、踏めるだけの脚は残っていないようです。後で調べたところ、このショートカットルート、瞬間的に15%を超える激坂で、しかもそれが、1キロ近く続いているようなのです。大先生が脚を攣った場所、それはまだ序盤。ここで遂に、大先生はある決断を下しました。 「もうダメ、押す」 「えぇぇぇぇぇ!?」 今まで、わたしと旅を共にするようになってから、舗装された登り坂では決して押すことをしなかった大先生が、あっさりとそう決断を出しました。その表情は、とても無念そうで…… 「だ、大先生、ゆっくりでいいですから、ちゃんとわたしもサポートしますから、だから、だから……」 「オロオロすんなって」 大先生は、大きく深呼吸して、そしてゆっくりと押し始めました。 「あと、泣くなよ」 「ちょっ…… 無理かも……」 「勘違いすんなよ。たまたま脚が売り切れてしまったってだけで、エルコスさんのせいじゃない」 「だいせんせぇぇぇぇ」 わたしは半泣きになりながら、言いました。 「それ、頭文字Dでハチロクがエンジンブローしたt……」 「そういえば、石塚運昇さんも鬼籍に入っt……」 うわぁぁぁぁん、だいせんせぇのイジワルぅぅぅぅぅっ!



もうすぐ綺麗な砂浜に着きますよ。

冷静に考えたら、結局、押したほうが早いんですよ。こういう場合。



とんでもない激坂を登りきって、県道68号線に合流すると、しばらく下り勾配になります。どうやら、谷底の部分だけ県道68号線は寸断していたようです。 道はいくつかの小さな集落をつなぎながら、海沿いを往きます。下り坂や平坦な部分では負荷もかからずに踏み込むことができるようです。 「なんとか時速30キロは出るな」 「これを維持できれば完璧ですよ!」 しかし、竹之浦を過ぎたあたりから、再度登り区間が現れると、さほど急でもない登り坂で、大先生の脚が悲鳴を上げます。 「いたたたたたた」 「ストレッチしてください!」 で、大先生がストレッチをしていると、誰かに見られているような…… 「あ、猿がいます」 「このあたりは、野生動物がとても多いらしい。害獣となっているみたいだ」 まさか、こっちに襲い掛かるなんてこと、ないですよね……? こんな状態じゃ、やられる一方ですよ。 どうにか脚の痙攣が治まり、ほうほうの体で坂を登り、ふたたび海岸線の平坦な道を駆け抜け、もう一度、登り勾配がやってきます。比較的緩い勾配ですが、今の大先生にはインナーローくらいしか残された手段はなく、時間をかけてゆっくり登ります。すると、左手に何かあるのを見つけました。 「何か書いてますね」 「ちょっと寄ってくか」 集落を一望する高台にあったのは、一組の案山子家族と、佐多岬来訪を歓迎する手書きの看板でした。 ――――そんなにいそがんでも たまには海を見て 心にゆとりをもとう! そういえば、今日は何だか、色々なものに追われていた一日でした。大先生とわたしは、そんも文字を見て、思わず笑ってしまいました。 さて、看板ポイントから出発してすぐに、トンネルを潜ります。そこから海岸まではずっと下りで、しばらく走っていると、遠くに宿の建物があるのを確認できました。ようやく、佐多岬の入口にあたる、大泊の集落に辿り着きました。 「はぁ、長かった……」 「志布志からたったの130kmしか走ってないのに、遠い昔の記憶みたいになってますよ」 遥か彼方からの旅は終わりを迎え、わたしも大先生も、汗と泥でぐちゃぐちゃになりつつ、本日の宿に辿り着きました。この日の宿泊はわたしたちだけのようで、大先生はオーシャンビューの大浴場で汗を流し、わたしはロビーを宛がってもらい、のんびりと休むことができたのでした。 「さあ、明日は天気もよくなることですし、佐多岬ですね!」 「いよいよだな」 なんて、大先生とわたしはキャッキャしていました。……就寝するまでは。 明けて翌日、外はわりと強めの風、そしてわりと強めの雨。路面はしっとり、どころがジャブジャブです。 「神は死んだ」 「神は死んだ」 大先生とわたしは、死んだ魚のような目で、ぼんやりと海を眺め、そして佐多岬のある方角を交互に眺めました。 もちろん、カッパを着て佐多岬に到達する、という案はあります。ですが、わたしの隣から、ポキンっ、という軽快な音が聞こえてきた、……ような気がします。 ふと、昨日ここに着く直前で見た手書きの看板に書かれていた文字を思い出しました。 ――――そんなにいそがんでも たまには海を見て 心にゆとりをもとう! ……と。 「大先生、どうしますか?」 「……折れたねぇ」 で、しょうねぇ…… 大先生は、とても無念そうで、だけどどこか清々しそうな表情で、わたしを輪行袋に収めました。 今日がだめなら、また今度来ればいい。次回までの宿題でいいじゃないか。 「後悔、してませんか?」 「してないったら大嘘だけど、それも含めて旅だよな」 と、大先生はさらに続けます。 「だって、そう教えてくれたの、エルコスさんじゃんか」 ……あ。そうでした。 いつだったか、北の大地で大先生を説教したことを思い出して、わたしはちょっとだけ、恥ずかしくなりました。 大丈夫、また、来れるから。 そう心に誓い、わたしたちを乗せたバスは、大泊を後にしたのでした。



集落を見下ろす丘にて。あと少しです!

今度こそ、8キロ先まで……っ!






感想戦





「いやぁエライ目に遭ったぜ」
「ホント、お疲れ様です」


さて、こんな感じの旅だった今回の出撃。実際にはこのあと、天候が回復したので垂水から桜島まで自走し、鹿児島から輪行して熊本泊、そして帰京、という流れであった。

そして、当初からの懸案であった、県道74号線のレポートについても、ある程度執筆できたので、ここに記す。




「有用な記録となりそうですね!」
「果たして役に立つのだろうか……?」


まず、柏原小入口交差点から、第二有明橋を渡り、R448方面へ。このときの通過時刻が8:22。





第二有明橋。志布志湾を一望できる。



そこからは、海岸線沿いに140mの登り区間になる。ただし、登り勾配は緩やかであり、対して下りは急である。これがだいたい18キロ続く。





割と登ってる印象が強い。



余談だが、路線改良があちこちで行われていて、旧道化した道も多い。ただし、普通に通れる道も多く、また、結果的に同じ場所に出たりする。





どっちに行こうかな?(結局どちらも同じ場所に着く)



こうしてしばらく走っていると、件の人工衛星用追尾アンテナモニュメントに辿り着く。ロケット型の街灯など、みどころは多々あるが、ぶっちゃけ言うと、その奥にある壕のほうが気になる。





そりゃあ、中に入りたくもなるでしょう。






「ちょっと待ってください、これ、崩れそうですよ!?」
「まあ、今となっちゃね」


そのあと、小串トンネルを抜けると、勾配は下りに転じ、内之浦の街に到達する。この間の区間距離は約18kmで、9:21着。すなわち、平均時速18km/hという記録になる。

余談だが、ここまでの区間でワタクシめはインナーギアを使っていない。つまり、その程度の登りである、という認識で差支えないだろう。

内之浦のローソンが、この行程に於いて最後のコンビニとなるので、補給をするのであればここでガッツリとしておきたい。





本当に、ほっ、とステーション。



内之浦の市街地を抜けて、登り区間が始まったとたんに、登坂車線を伴う程度の登りが始まる。地図上でも、この区間は急勾配が続くと書かれていたので、あらかじめ警戒はしておいたほうがよい。





7.5%、これがけっこう長い。



途中、JAXAの見学施設を横目に見ながら、登りは宇宙空間観測所まで続く。





ここでだいたい10:10。内之浦からだいたい1時間くらい。



そこから下り続け、根性の松を過ぎると岸良の集落に至る。この区間はほぼ下りなので、少しラクができるだろう。余談だが、根性の松は国道側からでも見ることはできるが、距離があるのでややボンヤリとしている。眺めるなら少々面倒でも、旧道に回ろう。





旧道から眺める根性の松。



あと、岸良の集落の手前には、高田の滝という名瀑があるので、ちょっと寄り道してみてもいいだろう。





高田の滝。



このあと、県道74方面に進むなら、この岸良が本当の意味での最終補給ポイントになる。エルコスさんの日記通り、登り坂が連続する区間なので、補給物資は多いくらいに用意しておきたい。





余談だが、給油ポイントもここが最後と思っておいた方が良い。



左折して、そこからさらに登る。もうお気づきかと思うが、全体通して言えることとして、稼いだ標高は、必ずゼロまで戻される。これが大隅半島の右側である。

県道74号の交点までは、約110mの登り。11:17に通過する。





ここを左折。



左折してからの注意点であるが、そのまま進むとR448の橋の下でふたたび丁字路に差し掛かる。直進すると佐多岬方面と案内があるが、これはR448を経由するという意味で、現道に復帰してしまう。

なので、左折し、さらに下るのが正解である。具体的な地名でいうなら、辺塚・大浦方面である。





ここはちょっとわかりにくいかな?



途中、マイクロ水力発電の施設脇を通りつつ、辺塚の海岸線まで降りる。約2キロで100m近く標高を下げるので、振り返るとR448が物凄く高いところにあるように見える。




「正直、あれ見たときはドン引きだったけどね」
「この先が登りってわかってただけに、ですね」






ただ、海岸線は美しかった。



辺塚海岸へ至る道との交点をスタートとして、ここから登り区間が始まる。登り始めたのは12:05、所々で二車線道路となるが、基本的には1車線道路。登り区間の平均勾配はだいたい6〜7%だが、瞬間的に10%を超える個所が断続的にやってくる。





一応、R448へと戻るエスケープルートもある。



先述のエスケープルートから先、しばらく9%の勾配が続くので、たいていこの辺りで心を折られるだろう。ただ、頂上まではだいたい25分で登れる。

頂上付近は、特に峠としての地名があるわけではないので、碑とかそういうものは、日記にあるように存在しない。つまり、端的にいうと




「登り損」
「鉄損とか銅損とかと同じノリで言いましたね今」






ここは鹿児島だけど、凍結注意。



ここから大浦集落への交点まではずっと下り。日記に書かれなかったことを補足すると、けっこう野生動物の気配がしたり、ご本人登場したり。

交点からはふたたび登り。ただし、1キロ弱走れば、また下りに転じる。ただし、この区間、具体的にいうと大浦集落との交点から打詰集落までの区間は、手入れがほとんどされておらず、走破には慎重さが求められる。





荒れ放題。



打詰集落を14:17に通過。ここから4kmの距離で120m登るが、これを過ぎれば辺塚の集落に辿り着く。登りは県道563交点まで続く。





右折すれば田代まで戻れるが、山岳部を通るのでやはりしんどい。



辺塚には小さいながらも商店がある。ただし、休みの場合もあるので油断しないように。あと、久しぶりに自販機があるので、水分を補給するのを忘れずに。





オアシス。



ここから、560mの登りが8キロやってくる。辺塚海岸からの登りと同等のものを、もう一度こなすようなイメージを持っておくとよい。異なる点は、さきほどは人跡未踏感があるが、今回のはそこそこ交通量があるということだ。





なかなかな急勾配。



14:56に登りはじめ、頂上に着いたのが16:12。ただし、脚が死んでいて、しょっちゅう攣るので立ち止まってこのタイムである。





こちらも、峠と銘打っていないので、登り損な感じは強い。



そこから下って、大中尾まで来れば、県道68号線に合流する。その大中尾到着が16:23で、グロスタイムで5時間ちょっとかかったことになる。

なお、R448で田代を経由した場合でも、この交点で合流することとなる。





お楽しみも、ここまでさ。



R448交点から大中尾までの区間距離は、約46kmとなる。ただし、海岸線まで下されたり、そこから600m近く登らされたり、そもそも道がまっすぐじゃなかったりするので、恐ろしく時間がかかると考えておきたい。あと、途中の区間では明らかに整備がされていない箇所があるだけでなく、携帯が圏外だったりもするので、万が一が発生すると







最悪、遭難する。






言わば、西の奥只見みたいな場所であると認識しておいた方が良いだろう。

最後に余談だが、R448交点で撮影をしていた時のこと、堺ナンバーの老夫妻に、佐多岬への最短ルートを聞かれるというイベントがあったのだが、その際、JAXAの職員から県道74号を勧められたと言っていた。







正気か?










JAXAの職員は、本気でこの道を近道と言ったのか……!?







エルコスさんのマイピクチャ




今回のフライトは、サテライトからだった。

宮崎空港の案内パネルは、懐かしい反転フラップ型。

九州といえば、ななつ星だな。

今回の行程は、常に天気予報とにらめっこしてた。

海彦山彦より。話のタネにはよかったかな、と。

志布志は晴れ。今までのアレは何だったんだろうか。

そして翌日はコレ。確実に翻弄されている。

内之浦のガードレール。宇宙の街らしい。

浜尻の海岸にて。こちらもある意味、穴場である。

佐多岬手前の手書き看板。なかなかアツいぜ。

エルコスさんはロビーで。自転車旅のメモリーが溢れてた。

晴れたので、桜島経由で自走することにした。

有村溶岩展望所にて。

フェリー乗り場を望む。早朝からこの天気だったら……!?

桜島フェリーに乗ったら、まずはやぶ金で。

程よい陽気だったので、むじゃきで白熊を買っていこう。

余談だが、鹿児島中央駅にヤマトの営業所がある(鹿児島エキまち1丁目センター)。

すっかり汚れちまったが、これも思い出よ……








この借りは必ず返すぜ……












エルコスさん日記13のテキストファイルはこちら。いつも通りの塩対応だ!










TITLE:遥かなる佐多岬
UPDATE:2019/04/05
URL:http://y-maru.sakura.ne.jp/265_ec13/ec13.html