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361:ヤマイドウ20〜やり残したミッション〜



text&photo  by  ymr20xx@y-maru.com。


【クイックリンク】

もしかして、と思って。   
最東端
劣化

誰だよ?
霧の釧路市街
悪あがき





本日のルート (powered by Ride With GPS)






もしかして、と思って。





「本当に、よろしいのですか?」
「まあね。それに、これくらいならバチも当たるまい」


本来であれば、まだ家で大人しくしていたほうがよい時期かもしれないが、事前にこのあたりで出かける予定があることだけは伝えていた。それに、このタイミングを逃すと、おそらくこのミッションは未完となる可能性が高い。





と、いう訳で、羽田空港へ。






「……で、早速迷子だ」
「空港に直接来るのも、久しぶりに感じます」


もしかしたら1年以上振りかもしれず、どこから降りるか忘れかけてた。ちなみに正解は手前側、すなわち湾岸道路のお台場方面行の歩道に降りるほう。反対の神奈川県方面行の歩道に降りてしまうと、ターミナル前で歩道が消失するという罠が。




「時間に余裕があったからよかったようなものの……」
「何事も実踏が大事だとはいうが、それにしてもわかりにくい」






考えてみたら、第3ターミナルで袋詰めして連絡バスにすれば迷子もなくなるよな。



で、いつものように第2ターミナルでエルコスさんを袋詰めにし、これまたいつものルーティーンで手荷物検査を済ませ……





サビっさび。






「なんかサビてね?」
「雨ライドの後、ツールカンまで確認してませんでしたね」


そう言われてみれば、このCO2インフレーター、ツールカンに入れたのいつだっけ?  というレベル。メンテナンスしなさすぎるのも考えものである。




「今回は大目に見ますが、帰ったら全交換ですよ?」
「そりゃそうだよなぁ……」






猛暑からの脱出。



11:30、釧路行きのフライトに潜り込む。今日は釧路に降りた後、花咲線に乗って根室まで行く予定だ。




「色々あったが、これでやり残したミッションも片付く」
「天気は問題なさそうなので、きっとうまくいきますよ!」


さて、飛行機は定刻よりすこしだけ遅れて釧路空港へ。





気温は22℃くらい。






「なんか寒いな」
「風が冷たいですね」


道東は夏でもストーブが要る、とはよく言ったもの。季節は6月末、首都圏ではうだるような暑さが続く中だが、これくらい過ごしやすいと身体的にも大助かりだ。





北海道らしい空になった。



ここから釧路駅までは下り基調の約20キロの道程。エルコスさんによると、次の根室行は16:04らしい。




「つまり、勝手丼だな」
「そうなりますね」






別のサイクリングクラブの車列と混ざったりもした。



さて、14:48釧路和商市場に到着。




「乗車予定の列車まで、まだ1時間以上余裕があります」
「ちょうどいい。メシ食べてくる」






釧路の台所。



で、いつも通りマイ丼を作ってもらう。個人的な感想だが、白身魚がオススメかと。





魅惑的なコンテンツ。



……で、丼を作ってもらっている間、もしかして、と思って前々から気になっていたことを聞いてみた。つまり、具材だけテイクアウトできるのか?  ということ。




「こうすれば外で飲酒できるし、なんなら汽車の中で呑める」
「もうここまで来ると筋金が入りまくりですね」


そして結果は……





7点盛り。









普通にできた。









「つまり、この方法であればツマミにできる、と」
「法の網目を掻い潜ったぞ」






もちろん丼を持って帰ってもいいそうだ。



こうして、数々の戦利品と共に釧路駅へ。翌日はふたたび釧路駅に戻ってくるので、コインロッカーに荷物をパージ。





コインロッカーはSuicaが使えた。



ついでに衣装も変えておいた。そして、忘れずにこれも。





今回はペダルたんではなく、伝統を受け継ぐあんちくしょう。






「さて、弔いミッションだ」
「いつの間に用意したのです!?」


準備が整ったところで、16:04根室行の列車に乗り込んだ。そして速攻でおっぱじめる





呑み鉄。






「弔い酒だ」
「絶対違う絶対違う絶対違うwww」


さて、根室本線の末端区間である花咲線区間、すべて乗り通すだけで2時間半以上かかる





車内は結構ガラガラ。






「景色はいいんだけどね」
「最果てまで来たという感じがしますね」


海沿いを走るかと思えば、時折森の中を走ったり、そして高確率でシカを見る




「シカとの接触も馬鹿にできないらしい」
「野生動物の行動は、なかなか読めませんから」


厚床を過ぎると、高台の上を往くようになる。実はこの辺り、海岸線よりも高い位置を通っていて、運が良いと断崖絶壁となっている地形を拝むことができる。この地形は観光名所の一つとなっていて、例えば落石海岸なんかは隠れた絶景ポイントとして有名だったりする。




「今回は寄れるかどうか」
「立ち寄りにくい場所なのですか?」


ちょっと予定しているルートから外れてしまうのだ。





その落石海岸が見えてきた。



さて、だいぶ陽も暮れてきた頃、ようやく自然豊かな景色から、人の住まう景色に変わった。もうすぐ根室の駅に着く。




「東根室の駅が廃止になったから、最東端の駅が根室に変わった」
「終端が最東端になったのですね」






ようやく着いた。



そんな根室駅には18:50着。ここでエルコスさんを復元する。





同じ列車に乗ってた他のお客は、足早に散っていった。



容赦なく陽は暮れて、6月末なのにクッソ寒い。そして思った以上に駅前の店が閉まってる




「こりゃセイコマ晩餐かな?」
「そのセイコーマートが駅の近くにないのですが」


さて、どうしようか……





駅そば屋はあるにはあるが、営業時間のストライクゾーンが狭すぎる。






最東端


6:55、根室イーストハーバーホテルを出発。カモメの鳴き声がけたたましい、まだ目覚めて間もない市街地を抜けて、さらに東を目指す。





海が見える。



とりあえず、行程のどこかでセイコマ寄って朝飯と水の補給をしてしまおう。




「途中に2箇所ありますが、それを過ぎると納沙布岬の先まで、おあずけになります」
「じゃあ、2つ目に寄るか」






セイコーマートたぼ琴平店。ここから先、しばらくコンビニ不毛地帯に。



これから我々は、日本の最東端である納沙布岬に向かう。ただ、この表現には諸説と賛否があり、




「厳密にいえば最東端は東京都ですし、北方領土を含めると……」
「政治の話になりそうだからパスだな」






難しい話は苦手だ。



とりあえず、自由に往来が可能な範囲内での最東端は、これから向かう納沙布岬ということになる。その岬までは、根室半島の海岸線をトレースする道道35号が、唯一のアクセスルートである。




「唯一というには語弊があるかと」
「確かに。2本あるからな」


この道道35号であるが、根室市街を起点に半島を周回している。そのため、納沙布岬までは北回りと南回りの2通りが存在し、どちらを選んでもさほど違いはない。




「海を見ながら、でしたら北回りがよろしいかと」
「考えたら、過去に納沙布訪れたときって、いずれも北回りだった」


で、走っていたら。……まあ北海道あるあるなので判ってはいたのだけれど、





ほとんど景色の変化がない。









原野に放り出される。









「ドラクエなんよ全てが」
「この感じ、宗谷の時と一緒ですね!」


北海道の自治体によく見られる、町の中心以外はほぼ原野的な地理をまざまざと見せつけられる。





時々、小さな漁港と集落が現れて、ちょっとホッとする。






「宗谷というよりかは、サロイチに近いんだと思ってる」
「あ、確かにそうですね!」


ちなみに北回りで納沙布岬を目指すと、おおむね20キロ近く何もない場所を走ることになる。あるのは、行程の途中くらいに位置する原生花園で、遠くのほうに雑草駆除のために放牧されたポニーが草を食んでいる。





どうも自由に中に入れるらしい。今回は入らなかったけど。






「なんにもないですね」
「こっちもこっちで、最果て感があるな」


北方領土が至近にある根室は、道北・稚内と同じくロシアとの繋がりが深く、市街の青看板にはロシア語が併記されるほど。それと関連している訳ではないと思うが、どことなく宗谷丘陵のあたりを髣髴させるような雰囲気がある。





「オロロンラインから撮りました」がギリいける景色。



小さな漁港を繋いでいくところなんかも、宗谷岬の辺りにどことなく似ているような気がする。




「……って、なんか立ってるぞ?」
「塔みたいですね」






なんだあれ?



霧の中から突然、天を突き刺さんばかりの塔が現れた。もう少し近づいてみると、それは比較的新しめの建物だった。




「オーロラタワーですね。望郷の塔とも呼ばれているようです」
「なんか廃墟みたいなんだが……」


オーロラタワーは、かつて昨今の情勢と呼ばれていたアレの影響で、2020年から営業を休止しているらしい。一応、休止扱いとなっているのだが、




「朽ちてきているような気がする……」
「建物も生き物です。使っていないと……」


この塔に活気が戻る日は来るのだろうか。





天気が良ければ北方領土が見えたらしいのだが。



ところで、この塔のある場所だが、我々が目指していた納沙布岬のすぐ隣くらいになる。すなわち、




「あのあたりが、納沙布岬ですね」
「え、ああ、そうなのか」


8:09、納沙布岬着。





ようやく霧が晴れてきた。



日本国内で自由に往来が可能な範囲内。この条件に於いて日本最東端となる場所だ。




「このあたりにはモニュメントが多数設置されてまして……」
「あの茶色いのも?」


四島のかけ橋という名前のモニュメントで、北方四島を連なり合わせたものだという。





ここらでは一番大きなオブジェクト。



ところで、説明不要と思うが、北方領土問題に関していえば、なかなか複雑な事情が絡み合って、一朝一夕で解決するような問題ではなくなっている。特に遠くのほうでバチバチやりあってる状況に於いては、解決の糸口すら見えない。




「あ、達之助先生の顕彰碑が新しくなってる」
「作り変えたようですね」






このあたりの碑の中では比較的平和なほうのやつ。



そして立場が変われば、それぞれの主張がぶつかりあって余計に分かり合えなくなる。ましてや我々は部外者だ。





多様性が重視された時代になった。人によっていろいろ考えも変わるだろうて。






「そんな訳で写真でも撮りたいんだが、なんかなぁ……」
「岬の灯台あたりではいかがですか?」


珍しくエルコスさんと意見が一致した。彼女とて、政治的な匂いのする中で記念撮影なぞ、遠慮申し上げたいのだ。そういった意味で、納沙布岬の灯台と、高碕達之助先生の顕彰碑は、真の意味で東の果てを感じさせる。





この灯台が地理的にも最東端になる。






「とりあえず、これより東にはもう行けませんね」
「来るところまできたなぁ」


付け加えると、この納沙布岬の踏破を以て、エルコスさんは北海道における4端すべてをシバいたことになる。




「北は宗谷岬、東はここで……」
「南は白神岬ですね。2019年に来訪してますよ」






ヤマイドウ11より。宗谷・納沙布とちがい、観光地化されていない岬だ。



西の端は定義が分かれるところだが、とりあえず奥尻島の北追岬ということでいいだろう。こちらには2023年に訪れている。





自由往来可能範囲での最西端だが、ここでは「最西限」と書いてある。






「最西端の定義は諸説があるようなので、次は尾花岬を……」
「宿題がいつになっても片付かねぇ」


あと、尾花岬は到達不可能な場所だからな。知っているとは思うが。





そしてやり残したミッションをシバいて、さんふらわあの首を獲った。






劣化


8:40納沙布岬発。ここからは半島を時計回りに進む。つまり、半島南側を往く。





歯舞方面へ。



半島北側と違い、途中いくつか集落があるほか、商店も多く見受けられ、どちらかというと南側のほうが人の気配を感じることができる。




「小さな漁港がいくつも連なってますから」
「このあたりだと何が獲れるの?」


このあたりは水産資源が豊富なことで知られる。エルコスさん曰く、サンマの漁獲量は日本一なのだとか。このほか、タラやカレイ、ウニなども豊富に獲れるし、これからの時期は花咲ガニのシーズンでもあるのだとか。

そして8月末には、街あげてのイベント、根室かに祭りが開催される。




「カニのカーニバr……」
「言っちゃったwww」


さて、なんやかんやしているうちに光洋町まで戻ってきた。交点を右折すると根室市街に戻るが、今回はこのまま釧路へと向かうので、我々は左折する。





まだ残ってたのかこの看板。






「この先に旧東根室駅があります」
「昨日の車窓からだと、まだ設備は残されているようだが」


9:39旧東根室駅着。





完全に閉鎖されていた。



もとから大々的な設備があるわけでもない小駅で、主に近隣の通勤通学用として使われてきた。




「あー、閉鎖されてるねぇ」
「単管でバリケード組んでいるあたり、本気さを感じますね」


かつてあった最東端駅の碑も、今ではブルーシートの中。もはやこの場所には、何も残されてはいないようだ。





手を突っ込んで1枚。これが精一杯。






「素通りするのもなんだから、さっき買った弁当でも食べよう」
「もとから、ここで食べるつもりでしたよね?」






ちょっと早い……  昼飯かこれ?



さて、この後の行程であるが、しばらくは海岸寄りの道となる、道道142号を西進していく。手っ取り早いのはR44なのだが、交通量が多くて味気なさそうだったので。




「余裕があれば、霧多布を目指しても良いかもしれない」
「少し走行距離が伸びますが、問題ないかと思います」


その途中、花咲ガニの水揚げで有名な花咲港が近い、ということで、ちょっと寄り道していく。





港へ向けてちょっとだけ下る。



港までは下り勾配が続く。根室半島は、海岸線より内陸に入った辺りが丘陵地帯で、鉄路や主要道路はいずれも高台の上を通っている。




「つまり、このあと登るのか」
「大した問題ではないですよ?」


そして、ここ花咲港でも、目にするのは





ロシア語も併記。









北方領土問題。









「日本語と、英語と、ロシア語で」
「果たしてロシアの人はこれを見ることなどあるのだろうか?」


さて、道は西和田の辺りでふたたび道道142と合流する。ここから南へと進んでいくのだが、




「おかしいな……  加速しないんだが」
「気付いてしまいましたね大先生」






落石まで10キロの地点。



この、踏んでも回しても一向に速度が乗って来ない感じ。決して登り勾配ではない、どちらかというと平坦な道なのに。




「あー、向い風かよぉ」
「気付いてしまいましたね?」


どうやら、うっすら南からの風が吹いているようだ。しかもイヤラシイことに、微妙に頑張らないと速度を維持できないという焦らしプレイ。





昆布盛を通過中。名のとおり、沿道では至る所でコンブを天日干しに。






「とりあえず落石までは頑張りましょう。残り10キロないくらいですから」
「これで風向きが変わってくれればいいんだけど……」


10:54、落石の集落まで来た。ちょうどこのエネオスがある交点で右折することになる。





実は過去に間違えて、そのまま落石漁港まで行ってしまったことがある。






「ここ、間違えやすいポイントなので気を付けてください」
「気が付いたら落石漁港に着いちゃうのか」


さて、右折すると進路は西を向き、向い風がある程度落ち着いた。





平地で28キロ巡行ができるくらいにはマシになった。



海沿いを鉄路が通っていて、この先別当賀の駅で合流する。鉄道は急激な勾配変化がないので大丈夫だろうとタカをくくっていたら、案外アップダウンが続く




「なんとかアウターで処理できる程度の登りだ」
「またそうやって無理するんだから」


そして11:18、別当賀駅に着いた。





何本かは各駅停車でも通過してしまう駅。



北海道にありがちな、旧貨車を改造した待合室がひっそりと建っていたが、駅周辺を見回しても、主な建造物はこれくらいのもん




「線路の向こう側に、ちょっとした集落がありますが」
「そりゃあ普通列車も通過するわけだ」


そんな感じの駅なので、当然のように人がいない。……かと思ったら、列車を待つお客さんが一人いた。




「いるものですね」
「観光客だと思う。地元の人の感じがしなかった」






たぶん昔は2面2線だったんだと思う。



時間的に恐らく、11:44釧路行に乗るのだろう。もうすぐ6月が終わろうという時期だが、ちょっと早い夏休みなのかもしれない。





それでは先に進もう。



……そういえば、今回は走破予定のルートを事前にサイコンに仕込んできた。




「たまにはナビ機能も使ってやらないと」
「考えてみたら、あまり使ってませんね、この機能」


それによれば、別当賀駅前は道道142を僅かに外しているらしく、来た道を少し戻るように指示された。すると、踏切があって、




「こっちですね」
「これまた判りにくい」


なお、同じ構図はこの先の初田牛にもあった。余談だが、初田牛もかつては駅があったが、こちらは2019年に廃止されている。





で、ここの交点を……






「道道142を外れて、1127号方面に向かってください」
「踏切を渡ればいいんだな?」


で、渡った先にあったのが、平原には不似合いなトンネル。





ただ、何かを貫いてるって感じじゃない。






「スノーシェルターですね」
「北海道らしいな」


とはいったものの、用途としては恐らく雪以外にもう一つある。

根室市と浜中町の境界付近となるこの地域は、妖精花伝説でも作中で触れられるとおり、霧が濃い地域で知られる。恐らくだが濃霧の際の道標としても機能しているのだと思う。





中は意外と明るい。



で、このスノーシェッドを2つ抜けた先で左折、ということらしい。





サイコンが言ってるのだ。「ここを左に曲がれ」と。









まじか。









「無理無理無理無理っ!?」
「俺だってヤだよ」


予定ではこの後、姉別の辺りまで線路沿いに並走してから道道142に復帰し、霧多布を目指すつもりだった。しかし、この交点、地図上で見ると厚床駅に近い位置にあるので、初田牛に戻るくらいなら、味気ない道にはなってしまうがR44に出てしまったほうがロスが少ない。




「なかなかうまくいかないものだ」
「リサーチが足りてませんでした……」


なので、ここで軌道修正をかける。その道すがら、面白い地形が。





何かが横切った跡がある。






「……ここ、何かあったな」
「目敏いですね」


エルコスさん曰く、旧標津支線の跡とのこと。厚床駅はその昔、もうひとつの路線とのターミナルとなっていた時代があり、別海を経由して中標津に至り、最終的には標津まで到達することができた。




「1989年に廃止となった路線です」
「そりゃあ草もボーボーになるわけだ」






日本遺産に指定されているようだ。



さて、厚床市街でR243交点を見送ると、およそ90キロ強で釧路だ。





右折すると中標津方面で、こっちのほうが道東の玄関口感がある。釧路よりも。



時刻は12:10。まあ、アベレージ20で走れば5時間くらい、といったところか。




「明るいうちに着けそうですね」
「だといいんだけどね」






さきほど以上に景色の変化がなくなっていく。



予感は的中した。北海道特有の市街地過ぎたら原野という地理に飛び込んでからというものの、なんか体感的に加速が鈍りだす




「大先生、悪い話とメチャクチャ悪い話、どちらからお聞きになりますか?」
「ソフトタッチなほう」


エルコスさん曰く、「風向きが西からに変わった」とのこと。んで、メチャクチャ悪い話というのが、




「これから今日一日、南西の風が続きます」
「まじかよ」


どうりで加速が鈍い訳だ。そうこうしているうちに、モンパチ先生の出身地でお馴染みの、浜中町に入った。





浜中町のカントリーサインがあらわれた。



場所でいうと、姉別というあたりらしい。自販機を見つけたので、ちょっと小休止。




「ではでは、折角なのでお写真をですね」
「ホント好きだよね」






何もない所にこういった味のある建物がポツンとあるのも北海道あるある。



今頃、首都圏ではうだるような暑さが続いているのだろう。幸い、道東のほうは、暑いのは暑いのだけれどカラッとしていて過ごしやすい暑さだ。




「湿度が低いからでしょうね」
「昔はどこもこんな感じだったんだけどねぇ」


30年位前の話だが、まだ北東北もこんな感じの気候で夏は過ごしやすかったと記憶している。それが今では、北東北どころか道南・道央のあたりまで、夏はすっかり蒸し暑い





そういえば、案外地面からの照り返しがきついように感じる。



さて、缶コーラなんぞ飲みながら一息ついていると、なんかハラ減ってきた




「茶内まで走り切れば、セイコーマートがありますね」
「そこまで頑張るか」






茶内ってどこだよ?









どれくらい頑張ればいいんだべか。






小休止を挟んだおかげで、ふたたび脚は回るようになった。ただ、ガス欠も早く、浜中市街のあたりではすっかりヘロヘロに。




「劣化し過ぎてる」
「まあ、今回は事情が事情ですから」


やはり、5月6月とほとんど乗ってなかったのが響いているようだ。そんな浜中市街であるが、道道123交点付近に商店があるのを見つけた。





見紛うことなき商店感。






「お、何か補給できるかな?」
「あ、大先生、そこは……」






ザ・シャレオツ。









レストランだった。






洋食キッチン  プレジールさんは、商店だった建物を改修して営業している、小洒落た店だった。最初、補給のつもりで立ち寄ったのだけれど、考えたら時刻はお昼時で、しかも幸いなことにハラが減ってる




「折角だから何か食べていこう」
「賛成です。ちゃんと食べてきてくださいよ」


店は店主が一人で切り盛りしているようだ。来訪時は他にお客さんがいなかったこともあり、料理はすぐに出てきた。地物の肉料理とパスタが人気とのことで、折角だから





ごめん何頼んだか正確に覚えてない(季節によってメニューも入れ替わる)。









肉盛りにしてみた。









「うめぇ……」
「良い仕事をされていますね」


……ただ、ここで悪い癖が出てきた。ほうほうの体で西へと走り、スッカラカンで美味な肉料理を堪能し、すっかり時間が過ぎていき、







霧多布岬どうでもよくなった。










オォィイイィィィイィッ!?(ちなみにこれは2003年8月に撮ったやつ)






「まあ、昨年も通りましたからねあそこ」
「決めた。このまま厚岸に行く」


ここでふたたび軌道修正が入った。このままR44を西に進んでいこう。




「そういえば、先程からサイコンが『道が違う!』とエラーをですね……」
「あーあーあー聞こえないwww」






このあとサイコンは必死にピーピー泣きだす(その原因を作ったのは我々)。






誰だよ?


相変わらず吹き続ける西風に押し戻され、午後になって日差しも強くなり、おまけにサイコンは「道が違う!」とピーピー泣きまくり、だいぶバラエティ豊かになってきた。





糸魚沢まで来た。このときの時刻は14:27。






「案の定、遅れだしましたね」
「あれだけ休憩取ってたからね」


そして、遅れだしている原因は、決して自身の劣化だけではなく、




「あ、第四種踏切ですよ!  写真撮りましょう!」
「これで共犯だぞwww」






ちょっとした旅の1シーンをでっち上げてみる。



結局アチコチで撮影ストップが入り、どんどん行程は押していく。こりゃ霧多布捨てて正解かもしれない。




「ところで、ここにはかつて駅がありました」
「糸魚沢駅だろ?  2022年に廃止されたな」


利用客減少で廃止が進み、それに引っ張られるように列車の運行本数が減り……  負の連鎖が起きかけている訳で。別寒辺牛湿原の最寄り駅にはなっているが、訪れる客の大半はレンタカーやバスなのだ。





別寒辺牛のカヌー発着所に大型バスが停まっていた。結局そういう事なのだ。






「鉄道には厳しい情勢だな」
「付け加えると、別寒辺牛のカヌー発着場があるのですが、鉄道では無理ですよ?」


ますます厳しいなこりゃ。





湿原の向こうに街が見えてきた。



さて、湿原が見えてきたということは、厚岸の街は近い。湖の向こう側に、夥しい数の建造物が見えてきたのだ。




「厚岸には道の駅がありましたね」
「ちょうどいい、寄っていこう」


15:09、道の駅厚岸グルメパーク到着。厚岸の街を見下ろす高台に位置する道の駅で、ちょうど釧路方面行の列車が駅に到着するところだった。





いい景色。






「瓶コーラがある。飲んでいい?」
「ご随意に。残り45キロほどですから、養生なさってください」






ヤマイドウ16のときも瓶コーラ飲んでたな。



ところで、瓶コーラを飲みながら、さっきからずーっと気になっているのだけれど、





スポーツ刈りがセクシー。









誰?









「エルコスさん?」
「少々お待ちを。調べてみます」


ところが。

エルコスさんの顔色がだんだん曇っていき、そのうち青くなった




「エルコスさん!?」
「ウソ……  そんなことって、あるの!?」


とりあえず、エルコスさんが調べた結果だけを申すと、この厚岸味覚ターミナルコンキリエのキャラクターと思しき外国人ダンサー、







一切の詳細が不明。










いやホント誰だよ君は?






「え、名前とかは流石に……」
「名前も不明です。しかも、道の駅広報関係者含め、誰も"知らない"と……」


そんな筈あるかい!?  ということで、一応聞き込みをしてみたところ、エルコスさんの言うとおりだった





こんだけあちこちに使っているというのに。



どうやら、有料の素材をそのまま使っているとのことらしい。それなら、CMの制作会社の人ならわかるかもしれないと思ってはみたが、同様の質問を沢山されていたようで、こう告げられた。







制作会社の人もわからないらしい。









「もう厚岸にカキのイメージが持てないwww」
「カモーン、だもんなwww」






カモーン。



そんなダンサーの色気にヤられたのか、道の駅を出発直後から、どうもサイコンがバグり出した。そういえば、先程から「道が違う!」とピーピーいってたサイコンのナビ機能、今度は東に進めと出る始末。




「一旦、ナビ機能を停めてしまいますか」
「そうだな。ここまで来ればだいたい道もわかるし」






一旦小休止。ちょうど駅もあったし。



15:54、門静駅に不時着。せっかく仕込んでおいたナビ機能だったが、予定の変更には滅法弱いということが判明。




「プラクティス目的であれば使えるかもしれません」
「クライムチャレンジ、結構便利だったんだけどなぁ」


さて、ここまでの走破距離は約142キロ。ぶっちゃけ、ここで走るをやめて輪行に切り替えても問題のない走破距離だ。




「無駄な抵抗ですよ?」
「それはわかってるが、一旦、絶望しておきたい」






現在時刻、16:00。









次の列車まで二時間待ち。









「なーwww」
「なーwww」


たぶんここで輪行して次の列車が来るまで待っている間にゴールしてるだろうから、当然のようにこのまま進む。以前、上尾幌でSTBしたときに物資の補充をした尾幌のセブンイレブンで小休止を入れてから、最後の山登り区間に入る。





あの当時はどういう訳か、折り返しの時刻が秀逸で普通に買い出しができた。



尾幌から釧路町境にかけて、おおよそ130アップの登りが控えている。根室から西に進んでいくと、ここが最後の難関となる。




「アウターでいけるかどうか」
「インナーに何か恨みでもあるのですか?」






アベレージ4%強の登りが約3キロ続く。



北海道の主要道路の登り坂は、本州のそれと比べても勾配は緩やかなほう。そしてこのR44も、幹線道路で交通の往来は多いが、道幅が広いのでフン詰まりが起きにくい。なので、50×28にギアを決めてしまえば、あとは忍耐勝負になる。




「こういう時こそ、クライムチャレンジが欲しい」
「あと1キロないくらいですから、頑張って!」


頑張らざるを得ない。何せ、撮影タイムしようにも、森の中過ぎて展望がない。これでは普通に休んでるだけではないか。




「違うのですか?」
「もうね、ホント、帰ったらお説教なwww」


で、勾配が緩んで、そこからしばらく進んだところが釧路町境。17:13の到着だった。





登りきった……






霧の釧路市街





「あ、展望の良いところ、ありましたよ!」
「写真撮ってあげるから、そこ立ってな」






町境からちょっと西に進んだあたりで、ここまで来ると登り勾配は完全に落ち着く。



一応、あの山向こうは海のはずなのだが、ここからはその景色が拝めず。そして、この先ルートは2つに分かれる。




「このままR44を往くか、道道142に再合流するかです」
「どうしようか?」


当初予定では後者だったが、今やプランが破綻しているので、このまま直進でも何ら問題はない。……のだが、




「とはいえ、たまには変化球も面白いかもしれない」
「では、次の道道1128を左折してください」






昆布盛方面へ。



だいぶ太陽が西に傾いてきた。早めに走り切ってしまいたい。





道道142交点まで連続した下り勾配になる。



ところで、道道1128を左折して、下り勾配に転じたあたりから、なんだか視界が曇りだす




「霧ですね」
「そういえば心なしか寒くなってきた」


陽の光が遮られると、思った以上に冷え込む。なんなら、ブレーキにかけた指がかじかむほど。





おやおやまあまあ。






「いやこれ、何も見えないな」
「こういう時に事故は起きやすいので、気を付けてくださいね」


で、道道142交点を右折し、釧路市境を通過。





釧路まで戻ってきたのだが……






「いやさ、ちょっと、見えなさすぎなんだが」
「そ、そうですねぇ……  先程と比べて、また濃くなりましたね」


そんな濃霧の中、道は軽いアップダウンが続くのだけれど、感触としてはやや登り基調。その理由は、釧路の市街地に入って判った。




「なんか団地とか住宅街とかに紛れ込んだぞ」
「白樺台ですね。もうこのあたり、釧路の市街地ですよ」






このとき時刻は17:58。門静から釧路行が出発したくらいの時刻だ。



どうやら市街南部は、高台の上に住宅街を造成したようで、さきほど登り返した標高を少しずつ吐き出しながら中心部に向けて道が続いている。




「つまりこの辺の人たちは、街に買い物に出かけたら、帰りは登りか」
「バスが発達しているので、歩くことは少ないかと思います」






鉄道未発達地帯なので、四輪車の往来も激しくなる。



……で、ようやく全ての貯金を吐き出すと、釧路のシンボル、幣舞橋が見えてきた。




「お疲れ様です!  釧路に到着しましたよ!」
「あー、久々だったからマジ疲れたわー」






このまままっすぐ進めば釧路駅。



釧路の駅前も、霧ですっぽり覆われていて、せっかくの好天が残念な結果になった。ただまあ、雨に祟られなかっただけヨシとしようか。





ごーる!



で、18:24釧路駅着。本日の走行距離は……









悪あがき






おやおやまあまあ(2回目)。






「えーっと、ですね……  185.6キロですね……」
「あー判る! すっげー判る! エルコスさんが何言いたいのか手に取るように判る!」


そう、あと14.4キロ走れば大台に乗るのだ。もちろん、野暮なことを言わずにここで打ち止めても、エルコスさんは文句は言わないだろう。えれえ残念がるけれども。

それに、今年は色々あって、佐渡の不参加と、そもそも出撃回数の低下という憂き目にあっている。チャンスがあるなら……  と考えてしまう訳で。




「エルコスさん?」
「R44を釧路町方面に往くと、イオンがありましたよね!」


決めた。最後の悪あがきといこう。





駅からは離れているが、とりあえずここに来れば大抵のものは揃う。



釧路のイオンまでは片道約4キロ。往復で8キロだから、あと6キロ少々稼ぎたい。




「もう少し北に進むと、ウインドヒルくしろというアリーナがあるようです」
「よしよし、実踏兼ねて見に行ってみよう」






湿原の風アリーナ釧路、という別名があるらしいが、それは旧称らしい。









思った以上に立派なアリーナ。









「大きなスポーツイベントが開かれるようですね」
「2008年オープンだから、まだ新しいな」


このほか、アリーナ周辺には野球場や陸上トラック、テニスコートなどがあり、釧路のスポーツの拠点となっている。





けっこう敷地面積は広かった。



さて、だいぶ陽が暮れてきたので、一度釧路駅に戻ってみよう。





こんなところに山岡家があった。






「これ完全に、ズルですよねwww」
「共犯だからなwww」


19:46、ふたたび釧路駅へ。





大台には乗った。






「やった!」
「よし、超えたな」


どうにかこうにか、走破距離200オーバーとなった。

さて、帰京は翌日の第1便を予定していたので、このまま釧路に一泊。そして翌日、





バス輪行とかも考えたのだが結局……






「あの昨日の濃霧はなんだったのやら」
「さすが、妖精花伝説の伝わる道東ならではですね」


バス輪行も考えはしたが、自走できそうだったのでそのまま釧路空港へ。





R240からだと、80ほど標高を上げる。距離は約3キロほど。



8:23釧路空港着。9:55羽田行のフライトを待つことにした。




「じゃ、また羽田で」
「はい。お疲れ様です」






なお、このあと普通に出勤した(いつものこと)。












TITLE:さんふらわあの首を獲りに行く。
UPDATE:2025/07/10
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