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256:四天王との邂逅



text&photo  by  ymr20xx@y-maru.com。






本日のルート (powered by ルートラボ)

牧丘→大弛峠→牧丘(実測60.9km)




イントロです。


自転車界における峠の四天王とはどこを指すか。これは、酒の席でネタにできるほど話題に事欠かず、個々によって大きく見解が分かれるところだろう。




「誰もが知ってるようなメジャーなところでよろしいのでは?」
「と、なると……」


エルコスさんが指摘する条件で当てはめるなら、まず筆頭は乗鞍だろう。次に渋峠。





誰もが納得の渋峠(2017年5月に撮影)。






「このふたつはそれぞれ、国道であったり車道であったりの最高所です」
「まあ、乗鞍は厳密には峠じゃないが、いいとするか」


他にもR299麦草峠や、裏磐梯、昨年通ったぶどう峠なんかを推す人もいるだろうが、もう一つ、車道に於いての最高所が存在する。それは、




「大弛峠とか」
「ヤヴァイほうの大弛ですね」


読みが似ているので、よくR20の大垂水と混同するが、山梨県と長野県の県境に位置するこの峠こそ、一般車両が通行できる、峠と名がついている場所における国内最高所である。

ちなみに、この峠自体は初来訪なんてことは全然なく、むしろバハ丸が存命のときにしょっちゅう来ている(その当時はいずれも川上村側から)。なので、どういう場所かくらいは知識としては持っているものの、




「自転車でなんて、行ったことがない」
「まあ、そうでしょうね」


奇しくも、エルコスさん共々お世話になってるショップの恒例行事で、大弛峠に登ってきた記事がアップされていた。そして、偶然というか何というか、







明日、休暇が取れるっぽい。









「エルコスさん、明日ヒマ?」
「すっごいヒマです!  いや、むしろヒマにします!」


……というやりとりがあって、突発的に出撃することとなった。





ちなみにこの日は平日だが、案の定ご同業が走ってた。






他の追随を許さず。


7:00、道の駅まきおか発。





今回は寝苦しさを嫌って健康ランド泊。やはりキャンカー化は必要か?



大弛峠へのアクセスで、車両をデポできそうな箇所はここくらいしかなく、とりあえず隅のほうに運搬車を停めておく。まずは一旦、花かげの湯まで下り、クリスタルラインの看板を頼りに、スタート地点の肉屋の角を右折。通過タイムは7:07、いよいよスタートだ。





肉屋、こと「肉のはせ川」。この辺でキャンプする人御用達だが、こちとら地獄の入口だぜ。



ここから一直線に登っていく。







10%の直登を6キロほど。










さあ、血反吐を吐きやがれ。






「平均斜度、7.8%くらいでしょうか」
「嘘だ、絶対に10%あるだろこれwww」


実際のところ、登り始めてすぐに通過する笛川小学校あたりで9%近い勾配があるだけでなく、ほぼこの程度の勾配が、だいたい5キロほどまっすぐに続くので、たいてい







序盤で心が砕かれる。










ちょうど葡萄がいい感じに実ってた。それが救いかなぁ。



さらに登って、杣口の浄水場付近になると、平気で10%を超える。そのあいだ、日陰になるような箇所はなく、両サイドを葡萄畑に囲まれた、直射日光からの逃げ場がない区間が続く。

まあ、当然だが、熱中症まっしぐらな訳で……




「み、水……」
「あそこ、あそこの湧水を!」






当然、作物には清浄な水だよね!



うん、強烈にキモチイィィ……  けど、明らかに不健康ではあるな。





サービスカット。改めて思うが、ホリゾンタルは絵になる。



こうやって、登って、湧水で冷やしてのループ処理をn回繰り返すと、金桜神社の鳥居が見えてきた。もう少し登ると、杣口の浄水場なのだが、




「あ、11%……」
「きっついなぁ……」


遮るものがない炎天下、吹き出る汗と鼻水、そして11%の登り勾配。さらにトドメを差すかのように、





現実とは無情なもんだぜ……






「あと26キロもあるのかよ……」
「琴川のダムまでは11キロですね」


つまり、どうやって考えても26キロのヒルクライムが残されている事実を突きつけられる。

あの乗鞍で20キロ、渋峠やぶどう峠ですら18キロ程度でしかない登り区間だが、ここはさらに10キロ上乗せしてくる。しかも、勾配は前述のそれらよりも遥かにきつい。




「安易に近寄りすぎた……」
「バルバトスさんみたいな峠ですねここ」






麓のゲートまで来た。直登の鬼畜区間はここまで。



さて、砂防ダムを望む橋を渡ったあたりから、序盤の凶悪さは鳴りを潜め、5〜6%程度の勾配とヘアピンが連続するありふれた峠道に変わる。ここまで来ると木洩れ日が差し込むような深緑の中を走るようになり、勾配が緩んだので脚も良く回る。




「調子が上がってきましたか?」
「暑さと、勾配と、ギア比かな?」






ヘアピンで高度を稼ぐようになった。自転車的にはありがたい線形だが。



ちなみに、休憩なしで登頂を目指すことなどハナッから考えていないので、適当に撮影タイムを設けつつ登る。しばらく登った先、甲府盆地を一望できるスポットがあるが、ここは絶景なのでぜひともゆっくり眺めておきたい。





休憩ではなくて、撮影中なのさ(説得力ないけど)。






「高難度ですけど、景色もいいじゃないですか」
「何せ、サイクリングルートとしては古参の部類に入るからな」


時代の変化で、2018年現在では山梨県側からロードバイクで登頂するのが一般的となっているが、古くからこのルートはサイクリングルートとして開拓されている。長野県側の度を超えたガレ場ですら、往年のランドナーは(乗って降りたか押して降りたかはともかく)普通に越えていったし、そのまま中津川林道に突入する猛者も多かったという。

当然、今でも少数ながら長野県側に降りるサイクリストはいるにはいる。ただし、度を超えたガレ場だが。




ガッ!「………………!?(プルプルプルプル)」
「大丈夫、行かないって」






だってこういう道だぜ?(2003年6月撮影)



いつぞや、奥日光でのトラウマに囚われのエルコスさんであるが、安心してください、こっちだってお断りです





もうちょっと登るっぽいんだよな。



さて、だいぶ登ってきて、琴川ダムまでの残り距離が表示されるようになり、これから登るであろう道が高いところに見えてて軽く絶望したりすると、いよいよ琴川ダムである。ダム管理事務所への交点までは、この行程で唯一の下り勾配となるが、すぐに登り返しが始まる。







どこかで見たなこのパターン。










うん、なんか登ってるね。






「これですね!  初心者の心をバッキバキに折る直登というのは!」
「……すげぇ折れたんだけど、今」






えぐいぜ……(ここで引き返す理由の50%がこの直登らしい)



序盤でこれなので、そりゃ初心者はサクッと殺られるだろうし、ヘタすりゃちょっとこなれた中級者こそ返り討ちに遭うだろう。そんな峠道、今まで聞いたことがない。





そんな心を癒す琴川ダム。もうこれ見て帰ろうか、って気になる。



直登が始まってすぐのところ、焼山峠への交点付近に、このあたりで唯一、休憩と補給ができるポイントとなる金峰山荘がある。自販機も完備で、大弛峠への最終補給ポイントになる。当然ながら休憩をするのだが、




「もはや休憩なしでは無理だわ」
「仕方ないですよ。この暑さとこの坂では」


決して、目の前の直登に心が折れたからではない、と言っておく。安心してください、ちゃんと登ります





ちなみに、ここの滞在時間は15分。ちょっとゆっくりし過ぎたかな?






勾配への感度が狂いだす。


目の前をご同業が通り過ぎていく。こっちは補給食に手を延ばしながら、残りの行程を思案する。

せいぜい4時間あれば登頂可能だろう、とタカをくくっていたが、どう考えてもこちらの脚では4時間切りは無理だろう。それならば無理をせず、昼飯くらいに登頂して、大弛小屋でカレーを所望すれば完璧さー!  みたいなプランニングに変更する。




「なんか今、ここに我那覇響さんが来ませんでした!?」
「いたかなぁ、ぬーさん?」






後半戦の開始を告げる、川上牧丘林道の第一ゲート。



補給が終わったところで、9:23、再度登り始める。山荘からスタートしたあたりで11%とか12%が出てくるほか、この区間でだいたい6%とか7%とか平均の登りが延々と続く。第一のゲートを通過した時点で、大弛峠まで残り14キロであることが記されるが、




「これが14キロも……」
「ファイトですっ!  諦めたらそこで試合終了ですよっ!」


神奈川県の高校の先生の科白を丸パクリしなくても、登るもんは登りますって。それに、事前の調査と過去の記憶で知ってはいたのだが、この勾配は







この先緩む。










そして、いよいよ大弛峠へ。



柳平の第二ゲート手前で、あれだけ熾烈だった登り勾配はいきなり緩み、なんと平坦に……




「なってません。2%程度ですが登り勾配です」
「いや、ほぼ平坦だ。ちゃんと25キロ巡航できてるし」


実際のところ、ホントにわずかながら登り勾配が続いている。しかし、これまでがアレだったので、もはや平坦扱いになっている。これが概ね4キロほど続くので、第一のゲートからカウントする実質的な登りセクションは、たったの10キロということになる。





林道の名に恥じぬ、木材切り出しの大型車とすれ違う。






「たったの……  どころじゃねえな10キロ」
「もはや感覚がおかしくなってませんか!?」


と同時に、この区間は稼ぎポイントにもなりうるので、タイムを狙うサイクリストは、このあたりで加速できるかどうかがキモとなる。まあこちとら、のんびり走ろうと思っているのであまり無理はしない。





この区間は、木々に囲まれた快走ルートで、コーズ全体を通じて、唯一のリラックスポイントでもある。



さて、第二ゲートを通過し、さらに進んでいくと、残り8キロというところで再び斜度が増す。




「ガツンとくるね」
「瞬間的に10%を超えるところもあるみたいですよ」


ここから峠までは、ほぼ斜度の変化がなく、だいたい平均7〜8%くらい。時速8キロでヨタヨタ走っていれば、だいたい1時間後には着くはず。





先は長いな……



ただ、かれこれ3時間もエグい登り坂を処理してきたツケは出始めており、首と腰と、あと脹脛が悲鳴を上げ始める。




「大丈夫ですか!?」
「あだだだだ……」


時々、木々の合間から見える奥秩父の山々が美しいので、とりあえず撮影しながらのんびり行くか。





天気は持ちそうだ。そして、ここまで来ると下界のうだるような暑さは感じなくなる。






「出ましたね合法的なズル技が」
「失礼な。景色が素晴らしいのだよ」


もちろん、撮影しながらストレッチは欠かせない。





水場を発見した。



途中、残り3キロの案内付近に水場があったので、念のために補給する。金峰山荘の自販機で仕入れた水は、既に底をついていたからだ。




「あー、つめてー……」
「ちゃんと飲んでくださいね。今日は特に水分が必要ですから」


そんな感じなので遅々として進まないが、間もなくして2連ヘアピンがやってくる。路面には斜線が印刷されているが、このヘアピンは見覚えがある。




「あとちょっとだな」
「もう少しですよ!」






いよいよ決着をつけるぜ(ちなみにこの車線は、駐停車禁止の合図。このあたりは縦列駐車が盛んなのだ)。



2連ヘアピンを2箇所処理し、やや左へ回り込む長い道を突き進むと、道は唐突に左へ屈曲する。その屈曲した先に、大弛峠のゲートと公衆トイレが見えた。





件のゲートを頂上側から。さりげなくここがきつい勾配になっている。



しかし、最後の最後で勾配は一気に12%まで跳ね上がり、ガクンと脚に来た上に腰が悲鳴を上げる。ただ、さすがにここまで来て脚は着きたくなかったから、ダンシングで一気に攻め込む。




「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うわーっ!?  ここで伏線の回収ですかーっ!?」






なお、大弛峠には、峠の碑なんて洒落たもんは置いてなかった。



11:20、大弛峠着。




「グロスタイム4時間13分か……  早いのか遅いのか……?」
「まあ、普通か、少し遅いくらいですかね」


早い人なんかだと、2時間以内で登頂しちゃうこともあるらしい。どんなばけもんだそれ?





峠は登山客で賑わっていた。生憎、ご同業の姿はなかった。






プロ仕様、初心者お断り


乗鞍にしても、渋峠にしても、頂上付近には何かしらの売店があったりして、少しくらいは休息を取ることができる。もちろん、そういう峠ばかりではないのだけど、この大弛峠もまた、大弛小屋という山小屋で、軽食を戴けるという。





おい、まじか……(by志摩リン)









なんだと!?(  Д)゚゚









「うわー、本当に誰もいない」
「か、神は死んだ」


平日だから仕方ないとはいえ、久々にでかいダメージとなった。ただ、素泊まりができるように鍵は開いていたので、ちょっとだけ中を拝見させていただく。





小屋の全景。



大弛小屋は、軽食の提供があるほか、宿泊することもできる。主にこの峠を起点として登山する客向けなのだけれど、乗鞍の位ヶ原山荘のように、ここで一泊するルートを描いてみても面白いだろう。







ただしロードはピストン必至。










素泊まり4500円からだそうで。



なお、小屋から10分ほど登山道歩道を往くと、夢の庭園という絶景ポイントがあるのだけれど、SPD−SLではやめておいたほうがいい。また、大弛小屋では、自転車での登頂記念グッズが販売されていたりするので、これはまた日を改めて伺おうと思う。




「ただ、できればしばらくは遠慮したい」
「だ、大先生が怯えてる……」


激坂にヤラれ、登頂したら補給ポイントが閉まっていて、すっかりボディとメンタルを削られて。これはアレだ、シロウトにはオススメできないやつだな。ということを改めて理解した次第。

結局、写真を撮ったりしてウダウダやってたりしたものの、することもなくなったので早々に下山することにした。





山々を拝みつつ。



帰りは延々30キロのダウンヒル。途中、登りの時に撮れなかった景色の撮影を補完したりして、1時間以上かけて下山完了。





麓まで下りると、すっげえ暑くなった。






「下山に1時間以上かかるなんて……」
「乗鞍の時ですら、1時間切ってましたからね」


あと、峠付近と下界の温度差が、正直笑えてしまうほどに大きいので、登頂の際は防寒具の用意を怠らないようにしよう。





13:04、道の駅に戻ってきた。








大弛峠のガイドライン


・勾配10%は当たり前、勾配20%も。

・大弛峠に至る道の8%勾配は、ただの設定しそこない。

・サイクリストの脚を攣らせるのが特技。

・あまりにもきついので2%勾配を1%扱い。

その換算方法で10%

・グッとガッツポーズしただけで直登区間が1キロ増えた。

・クライマー5名でグルペット組めば大丈夫だろうと思っていたら同じような考えだった20名のグルペットが全員自転車を押していた。

・笛川中学校前の路上でサイクリストが戦意喪失してしゃがみこんでいた。

・足下がぐにゃりとしたので見てみたら、斜度が20%近かった。

・「そんなキツくない」といってスタートしたサイクリストが、5分後脚を攣って悶絶していた。

・ここを訪れるサイクリストの1/3が足つき経験者。しかも、序盤の激坂を攻略して油断しているところへ金峰山荘前の激坂が襲い掛かるため「中級者ほど危ない」。

・全行程において、足が攣ってひっくり返る確率が150%。杣口浄水場あたりでひっくり返って金峰山荘前でまたひっくり返る確率が50%の意味。

・「ヒルクライム仕様だ!」とブレーキに至るまで軽量化して登って行ったクライマーが、ルーザーズバッグに自転車詰めてタクシーで下山してきた。






……とまあ、こんな感じの難易度ではあるが、時間を掛ければ決して登れない訳ではない。ただし、ハイシーズンの土休日は、川上側からやってくるオフロードバイクが多いのと、登山目的の自動車の往来があるので、交通事故には気を付けよう。





ああ、夏だねぇ。












TITLE:プロ仕様、初心者お断り。
UPDATE:2018/07/27
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