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本日のルート (powered by ルートラボ)
いくつかの実地踏査の果てに数年ぶりに、毎年9月に開催される、北アルプス山麓グランフォンドに参加した。……というよりも、こちらが知らないうちにエントリーが完了していたのだが、その理由が というのだからタマラナイ。というか自業自得であるが。 ![]() まあ、イベント自体は楽しいのですけど。 とはいえ、せっかくエントリーしたので、久しぶりに北アルプスの雄大な山岳地域を楽しみたい。早速、現地入りするのだけれど…… 開通した葛葉峠せっかく白馬に行くので、やはりこの区間は走破しておきたい葛葉峠周辺。ちなみに旧道は、1995年の水害を境に通行不能となっていたのだが、 なんと、まさかの急展開である。んで、実際に通ってみると、 ![]() ん? 通行止めの表記がないな…… なんと、峠から先が開通してやがりました(取材日は2017年7月22日)。だいたい干支一周分ぶりの快挙ですよ! ![]() その割にはずいぶん静か。 ただ、当たり前と言ってはアレだが、交通量はほぼ皆無。今では現道がトンネルで快適に峠を越えるので。
そしてこの旧道も、国境橋で通行止めになる。今までは国境橋のほうが通れていたので、言わば等価交換ってヤツだな!?(たぶん違う) ![]() かつてはこの辺りはがれきの山だった。 そして、新国境橋流出事故の際に迂回路として機能した市道を使って現道に復帰。とりあえず、葛葉峠が久々に開通したということがトピックスである。
さて、大会のほうは無事にエントリーを終えて、あとは明日の本番を待つばかりである。……何やら、天気が怪しそうなのだが。 ![]() 翌早朝、この時間にしては薄暗いのだが…… わたしの日記「な、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」 ……と、大先生が絶叫したのが7月のはじめごろ。そのわななく手に握られていたのは、北アルプス山麓グランフォンドの車検証。 「あら! 素敵じゃないですか!」 大先生が夏の思い出に、と気を利かせ、わたしに内緒でエントリーしてくれたのだと。……そう思い込んで、思わず嬉々とした声を上げたのですが、 「……申し込んだ記憶がない」 「……はい?」 次に大先生から飛び出した言葉に、わたしは、自分で言うのもアレなくらい、マヌケな顔をしていたと思います。そういえば、出だしからして大先生は驚愕していたような気が。 「どういう事ですか? それではいったい誰がエントリーを?」 こういったとき、思い当たる節は一件。renas先生です。大先生は大慌てでrenas先生に連絡を取りますが、その答えは…… 「俺じゃない、と」 いよいよおかしなことになりました。このミステリアスな現象は、一体どのように起きたのか。 大先生は思いつく限りの手段を講じて、この顛末を明らかにしだしました。そして、最終的に導き出された結論は…… 「どうも、酔っぱらった勢いでエントリーしたっぽい」 わたしは、自分で言うのもアレなくらい、ズッコケました。 さて、今年から開催月を7月に変更して開催されることとなったこの大会ですが、グランフォンドと名がついていることから分かるとおり、白馬周辺のアップダウンを丸ごと楽しんでしまおう、というコース設定になっています。大先生は酔った勢いで120キロカテゴリへの参加をしてしまったようですが、地図を見る限り、嶺方峠や小川村天文台、鷹狩山といったポイントを通るようです。 「これは、以前走ったルートとほぼ同じですね」 「嶺方峠を経由するのと、小川村天文台が追加されたくらいかな」 そのかわり、大峰高原を経由して松川村へと至るルートが削除され、そちらは新設された150キロカテゴリのほうに継承されました。 「150はチーム戦なので、たぶん酔ってた時に弾かれた」 「ごもっともですね」 ちなみに、いつもの自転車のツレであるrenas先生には、車検証が届くまでエントリーの事実は伝わっていません。そもそも申込方法がアレですから、当然といえば当然です。その上、renas先生は、「アイマスの夏、日本の夏」と声高らかに宣言していて、仮に事前申請したところできっと参加しなかったでしょう。 「久しぶりにソロ活動ですよ」 「そういやエルコスさんとは初めてかぁ」 はじめての佐渡ロングライド以来(ちなみにその時はわたしではなく晶さんでした)のソロプレイですが、果たしてどうなることやら。 大会前日、鹿島槍の会場で受付を済ませるのですが、この時点で空からポツポツと…… 「ミネラルウォーターが降ってきた」 「ちょっ……www」 信じられないことに、天候はまさかの下り坂。夜半には降雨があるとのことです。 「しまったぞ……」 大先生が渋い顔をしています。どうしたのですか? と訊くと、 「カッパ忘れた」 「ちょっ……www」 ああもうっ! どうしてわたしの雇用主はドジッ娘属性なんでしょうっ! しかも、明日が雨だということは、最悪パンクの嵐になることを示唆しているようなもので、替えのチューブはちゃんと用意して…… ああっ、聞くのが怖い。 「それは大丈夫だ。買い置きがある」 ハイエースの荷室に替えチューブが常備されているというのもシュールですが、……まあ、ないよりはマシでしょう。 こうして、雨がポツポツ言い出した中で、わたしたちは明日に向けての準備を済ませていきました。願わくば、明日は晴れていてほしいし、それが叶わなくても、せめて雨は降らないでほしいのですが…… 駐車場の脇の方で車団地したわたしたち、エントラントが続々と集まってきたようで、その雰囲気を感じ取って大先生は目を覚ましました。 薄暗い空、時刻的には明るくなってもいい時間帯なのですが、アイウェアがいらない程度に薄暗く、時折空からぽつぽつと…… 「ミネラルウォーターが降ってきた」 「縁起でもない」 しかし、天気予報は絶望的で、あとはいつ本降りになるかという問題です。幸い、天気は北から悪くなるようなので、嶺方峠を早々にクリアして、小川村まで逃げ切れば、それほどヒドいことにはならないのではないかと思います。 ただ、明らかに下り坂の天気で、本当に参加するのか、という懸念もあるのですが、 「まあ、エントリーしちゃったし」 諦めが肝心、と大先生はDBCCジャージに袖を通します。大町木崎湖周辺は、某ゆるふわ詐欺的自転車漫画の聖地でお馴染みですが、あえてフォルトゥーナさんを外してきました。 「しかし、思ったほど多くない」 「むしろ、346プロのPが多いですね」 見渡す限り、4名ほどプロデューサーさんが混ざってました。 「あ、大先生、巫女さんサイクルジャージですよ!」 「あれはさすがに露骨すぎて買えなかった」 そして、一組ですが353ジャージがいました。ちなみに、柄が露骨すぎるとのことで、大先生は考えることなくDBCCにしたという逸話があります。 「通勤で着れないだろう」 「通勤で着るつもりだったんですか!?」 あくまでも、露骨すぎない痛ジャージをご所望なさるとのことでした。マリリン・モンローみたいなやつですね。 さて、5:00から開会式が始まって、同15分から150カテゴリの参加者がスタートしていきます。彼らはまず、簗場へ下山…… せず、右折して小熊山方面へ。 「いきなりアップですか……」 「なんでも、150カテゴリの獲得標高は、3000近くなるらしい」 これだけの登り、さぞ歯ごたえたっぷりなのでしょう。ただ、調べてみたら、120カテゴリですら2300の獲得標高があるみたいで…… 「ホント、雨降らないといいんですけど」 「こればっかりは、運だな」 そして、5:30、わたしたちはスタートしました。 ……が、 「うわぁぁぁぁぁぁっ!? いきなり降ってきたぁぁぁっ!?」 「はっや!?」 簗場から旧道に出て、佐野坂を下ったあたりでポツポツと。 「天然のミネラr……」 「やめてーっ! ほんっとに縁起でもない!」 前走者に続いて32キロ巡航、八方尾根方面への陸橋を渡って、そこから岩岳、栂池と向かうのですが、栂池の登り勾配で完全に雨につかまります。 「うほぉぉぉぉぉぉぉっ!?」 「変な声出さないでください! それよりも、下りに気を付けて!」 これだけアップダウンが連続すると、登りよりも下りのほうが怖くなります。なぜなら、ブレーキがほとんど効かなくなるうえに、橋なんかのつなぎ目にある金属部分で簡単に足を掬われるからです。 基本的に下り勾配では、行ける、という確信がない限りは抑速ブレーキで下り、橋のつなぎ目はできるだけ直進状態で抜けるようにします。まあ、これでもズッコケるときはズッコケるのですが。 栂池のエイドには6:31に到着しました。ここでは小谷村の蕎麦が提供されます。 「大先生、それ何杯目ですか?」 「4杯目」 おかわり自由だからといって、食べ過ぎないように。後から来る人もいるのですから。ついでに、スタート時に補給できなかった水をいただいておきましょう。 このあと、ルートとしては信濃森上まで下り、裏道を経て国道406号へ。そこから嶺方峠までの登りを経て、鬼無里で小休止です。 「もう絶望しか見えない」 「脚を回してください。そうすればとりあえず何とかなります」 わたしはそう答えました。 もうこの時点でわたしの胎の中は、いかに大先生を無事にゴールまで導けるかという一点に絞られました。降りしきる雨の中、わたしができることといえば…… 「ハイ、もっとギアを軽くして!」 「イエッサー!」 そして、わたしの要求と雨脚は強くなりました。 嶺方峠までの登り区間ですが、白馬からだと7〜8%くらいの急な登りが8キロほど続きます。逆に、鬼無里側だと同じくらいの距離で4%くらいの斜度で済みます。以前ここを訪れたときは鬼無里側から登ったので、それほどきつさを感じませんでしたが。 「きっついなぁ」 大先生がよく言う、「ゾーンに入る」状態とは程遠い感じです。それでも地脚を活かしてゆっくりと登っていきます。 天気が良ければ、北アルプスの雄大な景色をバックに走れるはずなのですが…… 「楽しくない」 「わたしが言いたかったことを先に言わないでくださいよ」 登りはきつく、下りは怖くて、景色はない。これではただの苦行です。ほうほうの体で登りきった白沢トンネルに至っては、 「誰もいませんね……」 「ここまで過疎ってる絶景ポイントってのも珍しいな」 サイクリストにとっては憧れのポイントも、霧にまみれてアルプスの視界ゼロでは、誰も立寄ろうとしません。大先生は、ここでの写真を撮るべく三脚まで持参で走っているのに。 「雨の馬鹿野郎」 「怨念たっぷりじゃないですか」 がっかり感たっぷりで、わたしたちはトンネルに侵入しました。 ここから先は、鬼無里の給水所まで延々と下り勾配になります。しかし、路面の状態は良くないし、あちこちグレーチングはあるしで、決して快適ではありません。おまけに雨で濡れたリムは全然ストッピングパワーを生み出してくれません。 「だいせんせぇぇぇぇっ! もっとゆっくりぃぃぃぃぃっ!?」 「無理だっつーのぉぉぉぉっ!?」 制動距離が取れないので、自然と前走者との間隔は広がっていきます。その結果、前にも後ろにも、ご同業が一台もいない状態になりました。すると今度は、 「ミスコース、してないよな……?」 「恐らく、大丈夫なはずですけど……?」 違う心配が生まれてきました。一本道なうえに交差点には立哨が立っているので、ミスコースは起こり得ない、はずなのですが…… 「こうも人がいないと、却って不安になる」 「わかります」 けれど、それは杞憂でした。鬼無里の湯まで来ると、久しぶりの看板が現れました。そこには、左折と。 「エイドに着きましたよ」 「まずは一安心か」 鬼無里のエイドでは、水と地物のキュウリが提供されていました。おいしいのですが、できれば暖かいものが欲しかった、と大先生は言いました。 「なんで夏なのに寒いのよ」 「まさかでしたね」 日差しが強いといけないからと、長袖インナーにロングタイツで挑んだ大先生ですが、それがまさか防寒の役に立つなんて思いませんでした。そんな状態ですから、すぐ隣に建っている鬼無里の湯は、あまりにも魅力的に見えたようで、 「DNF、DNF、DNF……」 「誰も鹿島槍の登りを運んではくれませんからね」 もうここまで来てしまったら、走りきるしかないのです。 8:10、鬼無里を出発します。鬼無里の支所までは下り基調で速度が乗るのですが、どうも大先生の表情が晴れません。 「何か懸念でも?」 「いや、エルコスさん、右見てよ」 はい、山々ですね。あれを越えるのは大変そうですが。 「地図上では、これからあれを越えるらしい」 県道36号線との交点を右折すると、大先生の表情が晴れない主原因がドカンとやってきました。 「あ、11%勾配」 「まるで釜じゃねーかwww」 一応、「道路構造令に規定する道路の最大縦断勾配」というお役所のカタい決まり事においては、12%までは許されているようです。ただし、そこに距離などの条件は設けられていないので、 「い、いつまで続くんだこれ……」 「4キロくらいですね」 しかも、平均勾配は8%くらいだそうで、それはそれは…… 「お、美味死い……」 「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……」 途中、撮影タイムと称して休みながら登っていく作戦に切り替えてはみたものの、今度は、 「カメラが水滴でボヤける」 「ウェアで拭いて…… いや、ウェアも湿ってましたっけ」 「ああ、アクションカムのバッテリーが」 「外付け給電…… いや、雨がガン降りでしたっけ」 次から次へと解決すべき案件がやってきます。わたしはアポロ13ですか!? 「とにかく、ロマン館まで行きましょう」 「あと、どれくらいだ……?」 ほぼ農道と形容しても差し支えない県道36号線、ロマン館の地点で下りに転じます。そのロマン館がエイドになっていて、ようやく一息つけそう、なのですが…… 「これ、雨曝しだよね?」 「そ、そうですね……」 まあ、わたしの駐輪スペースに屋根がないのは、この際目を瞑ります。ですが、雨が凌げるような屋根つきのスペースが見当たりません。これでは、バッテリーを充電しようにも端子部分がむき出しになってしまいます。 「あ、大先生、あそこはどうですか?」 ロマン館の建物の脇に、白いドカシートが掛けられているのを見つけました。ここにハンドル周りだけでも突っ込めば、とりあえずアクションカムの充電はできそうです。 「ナイスアイデア。それいこう」 という訳で、わたしはめでたくドカシートに包まれることになりました。 短い休憩時間のあいだに、大先生は補給を済ませたようです。ここでの提供は、地元名産のおやき。切り干し大根が入っていて、食べごたえがあるそうです。 「ところで大先生」 「はい、なんでしょう?」 「そろそろ、アレが恋しくないですか?」 「……そういや、まだだったな」 アレというのは、この大会はもちろん、姉妹イベントのAACRでもお馴染みの、ネギ味噌おにぎりのこと。事前予告では、次のエイドでそれが戴けるようです。 「どうですか? 雨だからさっさとゴールに向かうという体で、出発しませんか?」 「ま、それもそうだな……」 大先生はさらに、「ここに長居しても、特にやることがない」とも付け加えました。 「んじゃ、行くか」 「はいっ!」 こうして、次のエイドであるぽかぽからんど美麻を目指したのですが、中途半端に充電していたアクションカムは、直前で息の根が止まりましたとさ。合掌。 「なんでだーっ!?」 「あ、ぽかぽかエイドは屋根つきですよっ!」 幸い、施設の体育館的なスペースを無料開放してくださっていて、文字通り「雨風凌げる」状態になりました。外付け電源のつもりで用意したモバイルバッテリーで本格的に充電を行っている間を利用し、大先生は念願のおにぎりへ。 「じゃ、食べてくるぜ」 「程々にしないとお腹が苦しくなりますよ!」 わたしがのんびり休息を取っている間、大先生はというと、ネギ味噌おにぎりと辛味噌おにぎりを3つずつ平らげ、地元のおじさま謹製レモンピールとマヨネーズのソースを試食して「コショウが足らん」と談笑したり、「レモンゼリーがうめぇ」と2つも平らげたり、そのときの様子を公式サイトの動画用に撮影されたりと、それはそれは盛りだくさんだったようです。 気が付くと、雨脚は少し緩んできた感じです。充電のほうは…… 満充電とまではいかないけれど、まあまあ何とかなるレベルまでには回復しました。30分もここに滞在していましたが、大先生は少々名残惜しそう。 「ここならもうちょっと居てもいいかなぁ」 「わたしは構いませんが……?」 どうやら、ここは長居しても、やることが沢山あるようです。 「お疲れなら、まだ休まれても……」 「あの坂、なくなんねぇかなぁ?」 「さ、行きますよー(笑)」 次のエイドがある美麻の支所までの距離は、たったの3.8キロ。その区間のはじまりは、いきなり10パーでした。なお、エイド間の距離が短いのには理由があり、 「ずっと10パーなんだよなぁここ」 「確かそうですね。以前走ったときは、調子に乗ったあんちょるちゃんが、早々にエンジンブローしてましたし」 大先生がぽかぽかエイドから動きたくない理由が、これのようです。しかし、わたしから見てもこの区間はちょっとしんどいと感じますし、ここはじっくり構えていかないと。 「ゆっくり行きますよ。大丈夫、前に転べば前に進みますから」 「できればお手柔らかに」 という訳で、いきなりインナーローでスタートします。最急勾配区間では時速が7キロ台に落ち込みますが、ゆっくり、じっくり、じんわりと登っていきます。 一般的に、時速6キロを割り込むと、押して歩いたほうが早いなんて言われていますが、大先生はそういうことをしないです。 「だって、つまんねーでしょ、せっかく一緒に来てるんだから」 「えっ……!」 ただし、ときどきこういった気障なことはしょっちゅう言います。ああもうっ!? 危うく…… 「どうしましたかぁ? 思考回路が短絡寸前でOCRが……」 「セーラームーンと本業を混ぜないでくださいっ!」 しかもニヤニヤしながら言うのですよこれが。……というか、大先生、調子が上がってきましたか? 「雨も小降りになったし、少し余裕が出てきた」 「これなら、行けますね!」 心なしか、クランクの回転も軽やかになったような気がしました。 さて、コースはこのあと、美麻の給水所を境に下り勾配になり、県道394との交点から曽山の給水所までがふたたび登りになります。曽山を過ぎると、あとは大町まで下り基調になるというレイアウトです。 美麻のエイドで水を飲みながら、大先生が計算をしだしました。 「登りが7キロで、下りで40キロくらいだとすると、平均は……」 「まあ、だいたい24キロ前後ということになりますね」 「うん、悪くない」 このままのペースで走った場合、鹿島槍のゴールに到着するのは、もしかしたら15時前とかになるでしょうか。 「いや、ヘタしたら14時前に着くかも」 「思ってたよりも苦戦してないじゃないですか」 そして、曽山のエイド…… というか、ちょっとした駐車スペースにテント建てただけの即席エイドでは、スポーツドリンクとバナナで補給します。 「まあこれで、7、8割方はケリがついたな」 「油断しないでくださいよ。最後の区間は登りなんですから」 わたしは一応、クギを刺しました。とはいえ、エグい登りもこれで終わりで、成すべきことをだいたい終えた安心感から、ちょっとだけ気を緩めました。 まさか、生でアレを見るとは―――― 「ひっ!?」 わたしが小さく悲鳴を上げたのを、大先生は聞き逃さなかったようです。そっとわたしのトップチューブを撫でてくれました。 「大丈夫、意識はあるようだ」 そう付け加えて。 今、わたしたちの目の前では、ひっくり返った自転車と、大勢の参加者と、数台の自動車。そして、道路の中央で倒れ、動かなくなった参加者の方。オレンジゼッケンなので、150キロカテゴリの方でしょう。大勢の参加者の中にもオレンジゼッケンの方がいたので、たぶんチームメイトの方でしょうか。 物々しい雰囲気の中、救急車が手配されました。落車したと思われる方は、自力で立ち上がれなさそうです。 「対向車をよけようとして、泥に突っ込んだか……」 「……え?」 見ると、道路の左側には、おそらく雨によって流れ込み、固まりかけていていた泥が広範囲に広がっていました。そこに突っ込んで、制御を失って、そして…… 「背中を強打してるらしい。動かしてはいけない」 「そんな……」 知識としての落車は知っていましたし、過去にはrenas先生もやらかしているから、慣れてはいたと思ってました。でも、実際に目の前でそれを見てしまうと…… 「もう一度言う。落ち着け、大丈夫だから」 「は、はい……」 今、わたしたちができることは、特になさそうです。先ほどから集まってきている後続グループに、トラブル発生と減速を促す手信号を送るくらいしか。それに、どうやら救急車の手配は済んだようです。 「行くぞ。ここにいても邪魔になる」 「え、でも……」 「チームの人がついているみたいだから、大勢いたって気の毒だろう」 下手に残っていては、落車した人も居た堪れない。大先生はそう判断したようですが、 でも…… でも…… わたしの中で、モヤモヤは解消されないままでした。 「誰しも、誰かに気遣いをかけさせたくないって思いはあるもんだ。まあ、今流行の言葉でいうなら、『忖度』ってやつだ」 「はい……」 「だから、こちらがいくら心配だとしても、あまり大勢で取り囲むのはいいモンじゃない。逆の立場になって考えたら、どうよ?」 「う…… まあ、確かにちょっとイヤ、というか恥ずかしいかも……」 「そういう訳で、過干渉にならないように、できるだけ気を使うようにしてる、ってだけだよ。さすがにこちらが第一発見者になったら、そりゃあ見捨てることはできないさ」 「なるほど……」 珍しく、大先生からお説教をされてしまいました。そんなわたしたちとすれ違うように、救急車がサイレンを鳴らして走っていきました。 「思ったより到着が早いな」 大先生が呟きました。 「あ、あの…… 大先生?」 「どうした?」 わたしは、意を決して、言いました。 「申し訳ありません、取り乱して」 「気にするな」 大先生は、サラッとそう答えてくれました。そして、 「気が引き締まった。こちらも油断しないで行くぞ」 「はい! 頑張ります」 ちょっと言うのが怖かったけれど、でも、言えてよかった。大先生はいつもの大先生で、細かいことは気にしていませんでした。 ならば、わたしがあと、すべきことは―――― 大町エイドには、12:25到着でした。 「このあとは、鹿島槍までの緩い登りでしたね」 「だいたい10キロくらいらしい」 もっと時間がかかるかと思っていましたが、これなら本当に14時前ゴールが実現できそうです。ですが…… 「不本意、なんだろうなぁ」 「と、いいますと?」 大先生曰く、わざわざ緩い時間設定で(ちなみにフィニッシュ制限は18時だそうです)組んであるということは、運営からしてみれば、「もっと寄り道して景色を楽しめ!」ということだろう、と。 天候の悪ささえなければ、到着はきっと遅れていたでしょう。そういう意味では、この時間設定に隠された真の意味はその役割を果たさず、それゆえに、不本意なんだろうなぁ、と。 「ま、これも歴史の一部だ」 と、大先生は割り切りをしたようですが、しかしどことなく残念そうではありました。 さて、大町エイドでは冷麦が供されていました。塩分マンセー! なんて叫びながら大先生が食べる食べる。 「だから食べ過ぎは毒ですしこれから他の参加者が到ちゃk……」 「塩分マンセー!」 ああもうっ!? 聞いちゃいないわこの人。 ですが、この塩分補給が功を奏したのかわかりませんが、ここから最後の登り区間、鹿島槍までの行程は、かなりスムーズに。 「入ったみたいですね」 「おう、一番いい状態だ」 どうやら、最後の最後でゾーンに入ったようです。巡航速度はだいたい25キロ程ですが、全体に上り基調で、かつ100キロ近く山岳コースを走った身を考えれば、これはかなりよい方です。 左手に爺ヶ岳のスキー場が見えてきました。ゴールまであとわずか、わたしは大先生に、抱いていた疑問をぶつけてみます。 「大先生、AACRと北アルプス、どちらが好きですか?」 ……と。大先生の答えは、まあわたしの予想どおりでした。 「こっち」 と。 「AACRは、某アレの影響で人気になってるんだけど、ちょっと忙しなくなり過ぎてるような気がする。付け加えると、あのコース設定は、どちらかというと『初めてイベントに出ます』という人向けな気がする」 「え、……そうでしょうか?」 「まあ、異論は認めるけどね」 右手に釣堀が見えてきました。鹿島槍への分岐は、もうすぐです。 「本当に自転車を楽しむなら、こっちかなぁ。距離は短いけど走りごたえがある。それに……」 「それに?」 「運営がフレンドリーなんだよ。AACRと比べてね」 大先生は付け加えて言いました。こっちのイベントは、「運営と参加者が一緒になって楽しもうとしている」と。だから、前夜祭がAACRと比べて盛り上がりが欠けてるかもしれないけど、オーディエンスとの一体感は、こちらのほうが上、だとも。 「それじゃ、また参加されますか?」 「聞くまでもないことだろう?」 「雨が降っても、ですか?」 わたしはイジワルするつもりで、そう聞きました。大先生はこう答えてくれました。 「願わくば、晴れてるときにね」 それを聞いて、さすがにわたしは吹き出してしまいました。大先生も笑っていました。 、右手に鹿島川を抱きつつ、大町からきっちり10キロ走ったところで、遂に鹿島槍の案内看板が現れました。残り1キロは、最後の登り区間です。 「しかし、簗場側からじゃなくてよかった」 確かに、あちらは平均勾配10%が延々と続く鬼畜のような道です。爺ヶ岳側のほうがまだ可愛げがあります。前回はrenas先生がいたことと、もう少しご同業の方がいたのでオーバーペースになっていましたが、今回は幸いにして単騎、しかも、前後を見渡してもご同業の方は…… 「あ、押してる、……というか担いでる」 「最後の最後でマシントラブルか」 そのあと、決して緩いと形容できない登りをこなしていくと、さらに押して歩くご同業が多数いました。 あとちょっと、あとちょっとだから。そう心の中で呟いていると、やがて勾配が緩みます。そして、駐車場が―――― 「ゴールだ」 「本当……、お疲れ様でした」 「疲れたよ久しぶりに」 大先生はそう言って、笑いました。 「でも、今日も無事に帰ってこれた」 「……はい」 「ありがとう」 「…………!?」 め、面と向かって何言ってるんですかぁぁぁぁっ!? わたしは恥ずかしくなって、強制的にアウターに叩き込み、叫びました。 「最後くらいアタックして!」 「任せな!」 前回はこむら返りで終わったこの大会、今回はしっかり足を残していたようです。アウターに入って一段と速度を増したわたしたちは、無事にゴールゲートを―――― 「おかえりなさぁぁぁぁいっ!」 とびきり元気なMCのコールと、実行委員長からのハイタッチに迎えられ、潜り抜けました。 |
エルコスさんのマイピクチャ
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