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幕間〜余市にて〜


ニッカウヰスキー余市蒸留所まで足を延ばした我々は、せっかくだから見学していこうという流れになった。 「飲酒運転はだめですよ?」 エルコスさんは心配するが、大丈夫、そのあたりは抜かりない。 「あれを見なさい」 「あ。駅があんな近くに」



駅前から見ると、本当に目と鼻の先に。



余市蒸留所は、余市駅の目の前にある。改札抜けたら入口が見えるくらいの距離だ。なので、試飲したら輪行で札幌に戻ればよいし、ハナからそのつもりである。 「なので、思う存分、試飲します」 「ダメな大人だぁ」 いいじゃないかこれくらい。 余市蒸留所では、施設見学のほかに試飲スペースでウィスキーが呑める。もちろん、試飲だから量は少なめ。 そのためかどうかは定かでないが、観光客がとても多い。 「あ、ご同業が停まってますね」 入口脇には、いかにもな自転車が仲良く壁にもたれかかっている。さすがにエルコスさんを中に入れるわけにはいかないので、同じように立てかけておいて、見学開始。入場両は無料だ。 蒸留施設や試飲を堪能し、すっかり『観光客』の一因となった我々だが、見るものはこれだけではなかった。というのも、余市はニッカウヰスキーの創業者である、竹鶴政孝の住居を復元したものがあるのだ。



復元の碑



「『マッサン』のモデルになった人だ」 竹鶴氏夫妻の生前を知ることができるようになっている。なお、二人は今、余市の小高い丘に眠っているという。 「羨ましいですね。いつまでも一緒だなんて」 見学を終えたあと、エルコスさんがポツリと呟いた。どことなく羨ましげな、そんな声で。 「……嫉妬?」 思わず、悪戯心で、そんなことを聞いてみた。すると彼女は、ちょいと背伸びしたような態度で、 「まあ、わたしはどう計算しても、大先生よりも先に寿命が来ますから」 なんて言うので、私は思わず、こう言った。 「……寂しいこと言うなよ」 「えっ……!?」 そのときのエルコスさんの表情は、敢えて見ないことにした。まあ、その驚きの声からして、なんとなく想像できるけど。 小樽へ行く汽車の時間が迫ってきたので、我々は駅へと急ぐ。もちろん、エルコスさんを押して。 「……何ニヤけてんの?」 さっきから様子がおかしい彼女に、思わず聞いてみた。 「いや、その……」 なにモジモジしてんのか。トイレか? 「女性に聞く内容じゃないですよね!」 「ごめんなさい」 なんて軽口を叩きながら、エルコスさんを輪行袋に収める。 「あの…… 大先生?」 「なに?」 「さっきの、アレなんですけど」 「……ああ、アレね」 輪行袋に入れ終わり、ボトルの水(入れたばかりで結局飲まなかった)を流し、エルコスさんをよいしょと持ち上げて、 「……ちょっと、ドキッとしました」 思わず倒しそうになった。ええい、顔を真っ赤にするな、こっちが恥ずかしい。 ちょっと意地悪しすぎたかなぁ、と反省しながら、私はもう一度、輪行袋を担ぎなおした。 小樽行の気動車が、煙を吐きながら、ゆっくりとホームに近づいてきた。



そして何事もなく、汽車はやって来る。






2日目へ。












TITLE:幕間〜余市にて〜
UPDATE:2015/09/15
URL:http://y-maru.sakura.ne.jp/215_yama6/maku01.html